サイバーセキュリティにくわしい小説家・一田和樹が出題する、ネット時代の新常識クイズ第30問!
2020年のアメリカ大統領選ではトランプとバイデンの両陣営が専用アプリを配布しました。個人のプライバシーにかなり踏み込んだ機能を搭載しています。
トランプ陣営はOfficial Trump 2020 appを2020年4月から配布開始し、10月末の段階で200万を超えてダウンロードされた。このアプリには電話番号、メールアドレス、フルネーム、郵便番号の登録が必要で、スマホの連絡先の共有、位置情報の提供、SDカードを読み書きする権限がアプリに与えられていた。また、キャンペーンの会場などに置いた看板にブルートゥースがついており、スマホが近くを通った際にわかるようにもなっていた。さすがに投票会場まで行ったことを確認する機能はなかった。
対立候補のバイデン陣営の配布しているアプリVote Joe appはトランプ陣営のアプリよりも要求するアクセス権限は少なかったが、アプリをインストールすると、スマホの連絡先を共有するように求められ、共有された連絡先は有権者名簿と対照され、連絡先の知人に対してバイデンに投票するようメッセージを送って説得するよう勧めるようになっていた。
両陣営のアプリは利用者の行動や人間関係を監視し、行動を促すように作られているため、MIT Technology Reviewはこれらのアプリが目指しているのはインドのようなデジタル権威主義国で用いられているアプリで監視ツールであると断じている。
この他に2020年のアメリカ大統領選で目立ったのは、テキストメッセージの利用だ。用いられたテキストメッセージは携帯のSMSで、通常は1対1のものを大量に一斉送信した。アメリカの有権者はのべ30億通の政治的なテキストメッセージを受信すると推定されていたほどに多い。ちなみにアメリカの有権者数は2億3千4百万人強である。
まんべんなく送信するのではなく、支持政党が確定していない地区(スイング・ステート)や重要な有権者グループに重点的に送信されたとみられている。
今回、大規模に使用されるようになった背景には、この4年間で個人向けにカスタマイズしたテキストを大量に送信するサービスが開発されたことと、選挙活動に関する法規制が通信技術に追いついていないことがあげられる。ほとんど規制のない状態で正体を隠し、キャンペーンを実行できる。SMSは送信者がわかるが、そこに電話しても応答はない。電話番号は外注業者のもので、法規制がないため発注者を開示する義務はなかった。
The Trump 2020 app is a voter surveillance tool of extraordinary power(MIT Technology Review、2020年6月21日)
https://www.technologyreview.com/2020/06/21/1004228/trumps-data-hungry-invasive-app-is-a-voter-surveillance-tool-of-extraordinary-scope/
トランプの公式アプリDL数はバイデンの約16倍、でも「低評価」(2020年10月30日、Forbes)
https://forbesjapan.com/articles/detail/37866
インドの監視管理システム強化は侮れない 日本との関係は......(ニューズウィーク、2020年08月03日)
https://www.newsweekjapan.jp/ichida/2020/08/post-4.php
Why you’re getting so many political text messages right now(The Conversation、2020年9月21日)
https://theconversation.com/why-youre-getting-so-many-political-text-messages-right-now-138755
Why political campaigns are sending 3 billion texts in this election(MIT Technology Review、2020年10月28日)
https://www.technologyreview.com/2020/10/28/1011301/why-political-campaigns-are-sending-3-billion-texts-in-this-election/
Disinformation Moves From Social Networks to Texts(The New York Times、2020年10月28日)
https://www.nytimes.com/live/2020/2020-election-misinformation-distortions#disinformation-moves-from-social-networks-to-texts
- プロフィール
-
一田和樹(いちだ かずき) 東京生まれ。経営コンサルタント会社社長、IT企業の常務取締役などを歴任後、2006年に退任。
10年、「檻の中の少女」 で島田荘司選 第3回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞を受賞し、デビュー。
著書に『女子高生ハッカー鈴木沙穂梨と0.02ミリの冒険』『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』『キリストゲーム』『絶望トレジャー』など。
http://www.ichida-kazuki.com/ Twitter:@K_Ichida
-
- 「2021年1月1日に日本でニュースに取り上げられた中国製のコロナワクチンの話題とは?」
- 「「自由で開かれたインド太平洋構想」の中核メンバーであるインドの現在の状況は?」
- 「民主主義国グループD10のメンバー国は?」
- 「イギリスが提唱している民主主義国のグループの名称は?」
- 「アメリカ大統領選でSNSを本格的に利用した最初の政治家は?」
- 「アメリカで最初に選挙でボットが使われたのはいつ?」
- 「アメリカ大統領選でトランプが配布したアプリの機能とは?」
- 「二重恐喝型ランサムウエアとは?」
- 「監視資本主義という言葉を最初に使った人は?」
- 「監視資本主義とは?」
- 「ネットで拡散しやすい発言とは?」
- 「エコーチェンバー現象とは?」
- 「AmazonやIBMが顔認証システムの提供をやめた理由は?」
- 「インドで使われている生体認証システムを提供している日本のメーカーは?」
- 「イスラエルのネット世論操作企業の名称は?」
- 「ネットでニュースを見る人は信用している?」
- 「ロシアのネット世論操作手法」
- 「ロシアのネット世論操作部隊の名称は?」
- 「中国の五毛党の名前の由来」
- 「中国を目の敵(かたき)にするフェイスブック副社長」
- 「中国と一帯一路参加国の人口は世界の人口の何%」
- 「世界で一番たくさんの留学生を海外に送り出している国は?」
- 「中国のデジタル・シルクロード」
- 「測位衛星を世界でもっとも多く保有している国」
- 「フェイスブックの提供する無償インターネットサービス」
- 「フェイスブックの北米とヨーロッパの利用者」
- 「日本のインターネット利用時間は世界の第何位?」
- 「スマホでインターネットを利用している人は何パーセント?」
- 「『いいね』がもっとも多いフェイスブックのページ」
- 「SNS世界トップ10に入っていないのはどれ?」
- 「世界でもっとも殺人的なマルウェア」(MIT Technology Review)
- 「世界最強の諜報機関と呼ばれるイスラエルの部隊」
- 「世界を監視するアメリカ国家安全保障局(NSA)の協力費用」
- 「世界を監視するアメリカ国家安全保障局(NSA)の秘密兵器」
- 「民主主義は世界の主流なの?」
- 「日本で始まる感染症抑止のための追跡方法」