よみもの・連載

今日も、日本語学校で

第1回「ここは異国かニッポンか 〜〜はじめての日本語学校」

北村浩子Hiroko Kitamura

 ああー、もう! ごめんね、分からなくて。不甲斐なさに下を向くと、T先生が「ごしゅじん、です」と彼に伝えた。
 ……そうか、おくさん、と対になる言葉が知りたかったんだ。 
 彼は「んー、ごしゅじんは、なっとうがすきですか」と韓国人学生に尋ねている。そうか、彼女は結婚しているのか。そう言えば、学生たちの年齢は思ったよりも幅広い。彼らがここで学ぶ理由や背景も、当然ながらいろいろなのだろう。
 適度な緊張と和やかさを保ちつつ進む授業の面白さに、どんどん引き込まれていく。T先生はまず動詞の活用を丁寧に練習させたうえで、使う場面を提示し、文型を用いて彼らが話したいことを話せるように導いている。テキストの会話を機械的に繰り返すような授業ではない。だからみんな楽しそうだ。昔、学校で英語を勉強していた頃は文法って退屈だと思っていたけど、実は面白いものなのかもしれない。
 いやー、日本語学校って、いいところなんじゃないの?

 それがわたしの第一印象だったのだけれど、いざ自分が教える立場になってみると、「学生を惹(ひ)きつける授業」がいかに難しいものであるかがすぐに分かり、それからずっと、毎回お腹を痛くして学校へ通うようになるのだった。

「日本語教育推進法」が今年(2019年)6月21日に成立した。
 国や自治体には日本語教育を進める責務、企業には雇用する外国人に教育機会を提供するよう努める責務があると明記した、日本に住む外国人の日本語習得を後押しする法律だ。
 繁華街で外国語が聞こえてくることは今やまったく珍しくなく、コンビニやスーパーで外国人の店員さんを見ることも普通になった。日本はもう、日本人だけでは賄えない国になった、とつくづく思う。できるなら、外国の人から、来たい、学びたい、働きたいと思ってもらえる国であってほしいけれど、懐疑的にならざるを得ない現実もある。
 日本語学校は、基本的には(と留保するけれど)日本の何かを魅力的だと感じている人たちが通っている場所だ。今年の2月19日付で法務省が告示した日本語学校(日本語教育機関)は全国に749校あり、独立行政法人日本学生支援機構の平成30年度の調査によると、日本語学校で学ぶ留学生の数は9万人以上。
 その中のほんの一部ではあるけれど、接してきた、接している学生たちとの日々を書いていきたいと思う。
 どんな人が、どんな動機を持って、どんなふうに日本語を勉強しているのか。
 そこから少しだけ、日本に対する「本音の印象」みたいなものも、見えてくるかもしれない。