よみもの・連載

今日も、日本語学校で

第2回「ヘリコプターとハリーポッター
     〜〜カタカナって難しい!」

北村浩子Hiroko Kitamura

 1カ月、2カ月。少しずつ苦手意識が薄れて、大丈夫、という顔になる学生も出てくる頃、こんなこともやってみる。
「みなさん、コンビニで飲み物やお菓子を買いますね。どんなコンビニへ行きますか?」
 ローソン! セブン‐イレブン! ファミリーマート! ドンキ! と声があがる。みんなドンキが大好きだ。ドンキはコンビニかスーパーかデパートか。ひとしきりみんなであれこれ言い合う。大きいスーパーということで取りあえず落ち着く。
「じゃあ、よく行くコンビニの名前を書いてください」
 ホワイトボードに書いてもらう。
「セブニレブン」
 ──ああ、そうだった、と思う。「ん」も、なにげにとても難しいのだ。

 日本語の「ん」の発音は、ひとつではない。
 何種類もある。
 日本間・日本人形・日本語・日本刀・日本史・日本。
 これらの単語の「にほん」の「ん」の音の作り方は、全部違う。表記は同じ「ん」でも、厳密には違う音なのだ。
 違いを生むのは「ん」の次の音だ。「にほんま」の「ま」の子音はm、「にほんにんぎょう」の「に」の子音はn。このように次の音の子音や母音によって「ん」の発音は変わってくる。
 新宿駅の表示は「Shinjuku」だが、新橋駅の表示は「Shimbashi」。「しんじゅく」の「ん」と「しんばし」の「ん」は同じではないことが、ここからも分かる。セブン‐イレブンのセブンが「セブニ」になってしまうのは、雰囲気が「ふにき」になるのと同じ理由だ。次の音に吸収されてしまう感じ。教えるのは難しいけれど「ん」は変幻自在の、実はユニークな音なのだ。

 教科書に載っている単語ばかりでは飽きてしまうので、あるとき「なんでもいいから好きなカタカナを2つ書いてください」と言ってみた。
「なんでもいいですか?」
「なんでも」
 回収したノートには、フェアリーテイル、キングダム、ドラゴンボール、スラムダンク、コーナン、ロブォト、木ットケーク、ゾヨゾヨ、ハイチョウなどの言葉が並んでいた。
 うーん、ゾヨゾヨってなんだろう……。
 唸(うな)りながら解読するのは、ちょっと楽しい。