よみもの・連載

今日も、日本語学校で

第5回(最終回)「教室はスモールワールド
     〜〜今日も日本のどこかで」

北村浩子Hiroko Kitamura

 モチベーションが強固なものになると、質問も多くなる。初級の前半から中盤にかけては、こんな感じだ。

  1. 「旅行に行きたいと思っています」と「旅行に行きたいと思います」はどう違う?
  2. 「友だちは結婚して嬉しいです」って言いたいんだけど……
  3. 「ゲームは楽しいです」「ゲームは面白いです」の意味は同じ?
  4. 日本人に「あなた」って、言っちゃいけないの?

 こんな風に答える。

  1. 「思っています」は前から考えていたことを言うときに、「思います」は今(誰かと話していて)心に浮かんだことを言うときに使う。
  2. 嬉しいです、寂しいです、は「私」の気持ちなので「友だちは嬉しいです」とは言わない。人のことを言うときは「嬉しそうです」とするか「(たぶん・きっと)嬉しいと思います」とする。
  3. 「ゲームは楽しいです」は「ゲームをするとき、私は楽しい」という意味。「ゲームは面白いです」は、私のことではなく「ゲームというものは面白いものです」という意味。
  4. 「あなた」の使い方はちょっと難しい。名前を知っている関係で「あなた」と言われると日本人はちょっとびっくりするので「名前+さん」で呼びかけるのが一番いい。アルバイトで上の人を呼ぶときは「店長」「○○先輩(○○さん)」がいい。

「先生、でも」と手が上がる。
「はい、なんでしょう?」
「あなた、を日本人はよく使います」
「えっ、どこで?」
 ふふふふふふ〜んとその学生は何かのメロディを口ずさんだ。他の学生も反応する。教室内に、分かった! というような笑顔が広がる。
 ……あ! 
「『Lemon』ですね」
 忘れられない大切な「あなた」のことを歌った、米津玄師の大ヒット曲だ。
「日本の歌は〈あなた〉がたくさんありますか?」
 学生の問いに「そうですね。歌では恋人や大切な人を〈あなた〉と言うことが多いです」と答える。「たとえばみなさんは、恋人の名前を知っていますから恋人を名前で呼びます。でも歌は、たくさんの人が聞きますから〈あなた〉を使います」
 米津玄師の『Lemon』は、特にアジアの学生を中心にとても人気がある。大のお気に入りで、毎日聞いているという学生もいる。このような「多くの外国人が知っている日本の文化アイテム」が、授業の助けになってくれることは多い。マンガやアニメ、アニソンは定番。作家では村上春樹だけでなく東野圭吾も知名度がある(いしいしんじの『ぶらんこ乗り』を原文で読みたくて日本語学校へ入学した、というタイの学生もいた)。ちなみに数年前、中国の学生に「日本の歌で何が一番有名ですか?」と聞いたら、多くの学生が『夕焼けの歌』というタイトルを口にした。彼らが見せてくれたYouTubeで歌っていたのは近藤真彦だった。カバー曲が中国でヒットしたらしい。こういう「そうだったのか!」なこともある。