よみもの・連載

捜し物屋まやま

第一回 前編

木原音瀬Narise Konohara

 ミイミイに会いたいがためにライブやイベントに足繁く通い詰める、ミイミイのSNSを数時間ごとにチェックするというアイドルオタク生活がはじまった。
 依頼人に無茶苦茶な暴言を吐かれても、アネ7のライブがあると思えば、ミイミイに会えると思えば我慢できる。どんなに疲れて家に帰っても、ミイミイのライブ動画を見たら、こぼれる笑顔を見たら明日も頑張ろうと思える。
 アネ7を通じて、ドルオタ仲間もできた。ライブ後の飲み会も超楽しい。生活は充実していたが、それでも現実が脳裏を掠(かす)める時がある。そう、彼女らは「アイドル」だということだ。
 去年、アネ7の初期メンバーの綾瀬香(あやせかおり)、あやっぺが卒業した。あやっぺの卒業まで金と愛を注ぎ込んだ仲間はその後、魂を抜かれた廃人になった。「あやっぺがまたアネ7に戻ってくるかもしれないから」と泣きながら、あやっぺのいないアネ7のライブに顔を出す様は痛々しく、ドルオタ仲間の涙を誘った。
 その姿を見て、徳広は恐くなった。アネ7は自分の生活に食い込んでいる。あるのが当たり前。ミイミイの卒業するアネ7なんて、ミイミイのいない世界なんて考えたくもない。彼女の中学卒業、高校卒業、そして成人になるまで寄り添ってきたのだ。
 だが、どんなに彼女の成功を願い、ありったけの愛を注いでも、グループ卒業や解散といった形で別離は現実になるかもしれない。
 彼女には、愛と夢と希望が詰まっている。それはいつ消えるかわからない、儚(はかな)いもの。明日は我が身……それをあやっぺの卒業でまざまざと見せつけられた。
 若いドルオタ仲間は現実味がないかもしれないが、自分や石橋といった古参のファンになるとわかるのだ。応援した期間が長いだけ、その反動で喪失も大きいことを。だから石橋が婚活をしていると聞いて、驚きつつも共感できる部分が大いにあった。
 諸々考えた末に、徳広はキャンプに参加することにした。一般人の「ミイミイ」に出会えるかもしれないと期待したのだ。
 石橋は気合が入りまくっていて、テントやテーブル、ランタンといったキャンプ道具を一通り自前で買い揃えた。それを使わせてもらうのが申し訳なくて「何か俺も準備しようか」と申し出たが「気にしなくていいよ。これから彼女と何度か使うことになるかもしれないし」と言われた。負担を掛けっぱなしで気の毒なので、車と食材は徳広が準備した。
 朝早いし、当日バタバタするのも嫌なので、昨日のうちに弟から車を借り、その帰りに石橋のアパートに寄って荷物を全て積み込んだ。当日は準備した食材を載せ、人をピックアップするだけ。万全の態勢で待ち合わせ場所にいるのに、来ない、来ない、誰も来ない。時間だけが虚しく過ぎていく。事故か何かに巻き込まれているのかと思い、周辺の道路や鉄道状況を調べてみたが、どこも通常運行。彼女たちは兎(と)も角、石橋まで来ないのはおかしい。
 不安でジリジリしながら待つこと三十分、九時半過ぎにようやく石橋へのメッセージが既読になり、返事がきた。
『連絡遅くなってゴメン』
『今、病院』
『アパートの階段から落ちた』
『足の骨折れた』
『しかも両足。最悪。頭も打って失神。彼女に救急車呼ばれた』
 メッセージを読みながら「嘘だろ……」と呟いた。
『大丈夫なのか?』
 レスは即行で返ってきた。
『明日、手術』
『俺は無理だし、彼女と友達も今回はやめるって』

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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