よみもの・連載

捜し物屋まやま

第一回 前編

木原音瀬Narise Konohara

 気持ちはわかる。見ず知らずの男といきなりキャンプなんて、そりゃ無理だろう。だけど……振り返る。ジープには、新品のキャンプ道具と食材が隙間なく詰め込まれている。
『マジごめん』
『食材とか、かかったお金は俺が払うから』
『もしキャンプに行くなら、道具は好きに使っていいから』
 石橋のメッセージの後に『こっちは心配しなくていいから。お大事に』とレスしたが、石橋の既読はつかなくなった。バタバタしているようだ。
 事情はわかった。しかし落ち着いて考えると、疑問点がいくつか。石橋はアパートの階段でこけた。そして彼女が救急車を呼んだということは、二人は一緒にいたのか? もしかして……彼女は石橋の家にお泊まりしていたのか?
 今となってはもうどうでもいい。そしてただただ途方に暮れる。キャンプ一色で気合が入っていたこれからの二日間、どう過ごせばいいんだろう。ひとまずキャンプ場に連絡を入れてみたものの、当日だとバンガローのキャンセル料が発生すると言われた。そう、キャンプが初めてという女の子二人のために、バンガローを借りてあったのだ。
 行っても行かなくても金はかかるし、食材はクーラーボックスに寿司詰め状態。道具を好きに使えと言われても「今からキャンプに行こうぜ!」と誘って、来てくれるようなフットワークの軽い奴がいるのか?
 ふと、職場の入っているビルの管理人、間山和樹の顔が頭に浮かんだ。
『今何してる?』
 そうメッセージを送ると『何もしてない』と返ってきた。緊張しながら『今から一泊二日でキャンプに行かない?』と送ってみる。秒で『えっ、キャンプ! 行く行く!』とレスが来た。
『白雄(しお)君にも声かけてみてよ』
 四人分の準備をしてあるから、まだあと一人大丈夫。そうだ、今日は事務所が休みだから、電話番と受付の三井も行けるかもしれない。声をかけてみよう。
『今から事務所に行くよ。テントや寝袋はあるから、各自着替えだけは用意して』
 了解、のスタンプの後に『キャンプだ、ウエーイ』と続く。軽い。風船のように軽いが、捨て猫気分だった徳広の心は救われた。
 こうしてドルオタ仲間とかわいい女の子から、職場のあるビルの管理人兄弟と事務所のアルバイトにメンバーチェンジしてキャンプに出かけることになり、そして今に至る。
 ビルの管理人兄弟の兄である間山和樹は二十五歳。弟の白雄と組んで、ビルの四階で捜し物屋をやっている。依頼人が探しているものがある場所に占いでアタリをつけて、教えてやるというシステムだ。
 その話を聞いた時、最初に頭に浮かんだのは「詐欺」のワード。しかし管理人なので面と向かっては言えなかった。いつか依頼人との間にトラブルをおこし、うちの法律事務所に来るんじゃ……と思っていたが、その点兄弟は上手くやっていた。
 相談料がとにかく安い。しかも「占い」と銘打っているので、当たっても当たらなくても法的に問われることはない。依頼者も「占い」で来るわけだから、外れても文句は言いこそすれ、訴えはしない。というかそんなことをしたら逆に金がかかる。
 占いを使った捜し物屋という詐欺……いや、斬新なスタイルで仕事をしている二人だがよく当たるらしく、ぽつぽつ客が来ている。
 年が一回り離れているにもかかわらず、徳広がこの兄弟と付き合っていけるのは、和樹の人なつっこさによる。口もフットワークも軽いが、不思議と浮かれた感じはない。
 弟の白雄とは血の繫がらない兄弟という話だが、白雄の方が体格がいいので、年が上に見える。しかしそれは禁句だ。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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