よみもの・連載

捜し物屋まやま

第一回 前編

木原音瀬Narise Konohara

「そういや白雄君は後から合流なんだよね」
 徳広は口の中でジャリジャリしているポテトチップスを飲み込んだ。
「仕事終わってから来るってさ」
 白雄は捜し物屋と並行してマッサージ師として働いている。息を呑むほどイケメンの白雄は、喋ることができない。生まれつき声帯が……と和樹が話していたが、詳しいことは知らない。ただ喋れないだけで耳は聞こえる。伝えたいことは手のひらに字を書く、もしくはスマホに文字を打ち込んでこちらに見せるが、和樹とは口パクで話をしている。
 白雄が話せないと聞いた時、イケメンで喋れないとか、そういうアニメキャラいたな〜と思い出した。冷たそうな雰囲気で近寄りづらいなという印象は今も変わらないが、いつも和樹にくっついているのでその存在に慣れ、イケメンも気にならなくなった。和樹によくなついている、でかい犬のイメージだ。
「誘っておいて何だけどさ、君ら兄弟っていつもセットだよね」
 和樹がポテトチップスをほおばりながら顔を上げた。
「そう?」
 どっちかっていうと……と三井が話に入ってくる。
「白雄君が和樹君についてきてるって感じかな」
 和樹は「そうかも」と頷く。
「君らさ、同居してて、捜し物屋の仕事も一緒ってなると、たまに相手が鬱陶しくなったりってことはないの?」
 徳広の疑問に、和樹は「鬱陶しい?」と反芻(はんすう)し、「まぁ」と後部座席にもたれかかった。
「あいつ、昔からずっとあんな感じだったからなぁ。俺ら兄弟になる前、幼稚園の頃からの幼なじみなんだよね」
「そうなんだ」
「毎日一緒に遊んでたし」
 和樹の両親は仲がよかったママ友の死後、身寄りのないその息子を、障害があると承知で養子にしている。外国だと実子の他に養子をもらうというのはテレビでよく見るが、徳広の周囲ではほとんど聞いたことがなかった。息子に、古いとはいえポンとビルを与えて管理させているぐらいだから、和樹の両親は子供の一人や二人、サクッと引き取って育てられるだけの財力があるんだろう。
「そういや和樹君、今朝、柊(ひいらぎ)出版の河原さんて人から電話があったけど連絡した? 担当さんだよね?」
 三井に返事をしないままスーッと横を向く。そういえば和樹には小説家という一面もあった。……読んだことはないが。
「僕は小説のことはよくわからないけど、返事はしておいた方がいいと思うよ」
 優しい三井の忠告に、和樹は「はいはい」と投げやりで、かつテンションが低い。雑誌掲載が一度きりというところからして、色々と推測できる部分はあるが、深くは突っこまない。
 会社での人間関係が原因で退職して引きこもること十年以上。家が火事になって焼け出され、それをきっかけに再び社会に出てきた三井は、徳広の働く『江原法律事務所』の電話番兼受付と、和樹のやっている『捜し物屋まやま』の受付のアルバイトをしている。
 親切な三井は『捜し物屋まやま』のサイトを作成、そこからネット予約を入れられるシステムを作った。それで格段に便利になり「捜し物屋さん、やっているんでしょうか」と江原法律事務所に聞きに来る人は減った。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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