よみもの・連載

捜し物屋まやま

第一回 前編

木原音瀬Narise Konohara

 三井は気が小さくて優し過ぎるきらいはあるが、真面目で頭のいい男。そしてアネ7のガチファンでもある。ファンになった時期的にみると新規だが、その愛は熱い。仕事が暇な時は、いつも二人でミイミイの話をしている。ミイミイのネタで一日中でも語らいあえる。
「三井っちさぁ、水着ってどんなの持ってきた?」
 和樹に聞かれ、三井が「僕は何も持ってきてないよ」と後部座席を振り返った。
「嘘でしょ! 山のキャンプで、川もあるっていったら、泳ぐでしょ。三井っち、泳ぐの嫌いな人?」
「好き嫌いとかじゃなくて、まだ五月で水温低いよ。海開きもしてないのに、川で泳いでたら風邪をひいちゃうよ」
 和樹は初めてそのことに気づいたようで「そういやそうかも」と呟く。ノリは軽く、そして考えも浅い。それが和樹とも言えるが、この雰囲気でよく小説なんて内面世界バリバリのものが書けるなと思ってしまう。……読んだことはないが。
 酒を飲まれたり、菓子を食われたり、三井とアネ7を合唱しながら、徳広は車をひた走らせる。途中から道は片側一車線になり、緑が近く、深くなる。山の中に入っていっているぞ、という気配が強くなってくる。
 本当は石橋と交代で運転する予定だった。キャンプ場まで距離もあるし、途中で交代してもらうつもりで、二人には「免許証を持ってきて」とお願いしたのに、三井はペーパードライバー、和樹にいたっては車の免許を持っていなかった。
「えっ、白雄君は車で来るんだよね?」
「うん。あいつは免許も車も持ってるから。俺は原付だけ」
 長身の美形で、手に職をつけて働いている白雄は、和樹よりも格段にスペックが高い。グダグダの兄と違い、しっかり自立した弟。正反対のようだが、もしかしたらそういう部分で間山家の義理の兄弟はバランスが保たれているのかもしれない。
「あっ、あれ」
 和樹が後部座席から身を乗り出し、前方を指さした。
「道の駅じゃね。寄っていこうよ」
 急いでいるわけでもないし、昼ご飯にいい時間だったので入った。メンバーチェンジ前は、キャンプ場に行く道の途中に天然酵母と国産小麦を使った美味しいパン屋があるので、そこでサンドイッチを買ってキャンプ場で食べる予定だったが、面倒くさくなったのでここですませることにした。
 土曜日なのに、道の駅の駐車場は半分近く空いている。連休中でもなければ、まぁこんなものかもしれない。
 入って正面では土産物と地場産品らしき野菜が山盛りになって売られていて、左手にはレストランがある。まず腹ごしらえと、レストランに入って窓際の席に陣取り、徳広はカツ丼、三井は唐揚げ定食、和樹は鹿肉のハンバーグ定食を頼んだ。
「俺、鹿って食ったことないんだよね」
 和樹は鼻息が荒い。
「俺は修学旅行で行った奈良で見たな。あいつらの鹿煎餅(せんべい)に対する執着は恐ろしい」
 徳広のぼやきに、三井は「ははっ」と笑った。
「鹿ってかわいいですよね。子鹿のお尻とか特に」
「三井っち、尻とかエロいことゆうね〜」
 和樹に指摘されて、三井がカーッと頬を赤くする。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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