よみもの・連載

捜し物屋まやま

第一回 前編

木原音瀬Narise Konohara

「その、変な意味じゃなくて、本当にかわいいんですって、鹿のお尻」
 ニヤニヤしている和樹に「和樹君のハンバーグは子鹿かもね」と徳広が告げると、途端にカッと目を見開いた。
「いや、絶対に子鹿じゃない」
 確証はないのに絶対とつけるあたり、子鹿は嫌なんだろう。
「わかんないよ〜罠にかかったいたいけな子鹿が、親鹿と引き離されて、泣く泣く和樹君のために……」
 ネチネチ絡んでいると「あ、すみません」と珍しく三井が話を遮ってきた。
「バンビが食材なのはいいんですけど、親とはぐれるとか想像しちゃうとメンタル沈むんでこの話は終了でいいですか?」
 三井は繊細だ。徳広は「了解」と話を終わらせた。
 ほぼ三人同時に注文した料理が届く。地元で育てた豚で作ったというカツ丼は、肉が厚くてジューシーで美味い。こりゃ大アタリだ。帰りも寄ろうかなと思って顔を上げると、和樹はハンバーグに手を付けていなかった。いや、正確に言うと付け合わせの野菜やご飯は食べているが、メインの鹿肉ハンバーグは食べていない。
「バンビ、食べないの?」
 和樹は「祐さんが子鹿だバンビだ言うから、想像して食えなくなったじゃん……」と悲しげに目を伏せた。いつもズボラなのに、妙なところでセンシティブさを発揮する。そして「最初に一口食ってよ」とハンバーグの皿をズイッと差し出してきた。
「嫌だよ。どうして俺を共犯にしようとするの」
「祐さんのせいじゃん」
 自分たちのやり取りを見かねたのか、三井が「みんなで公平にトレードしましょう」と提案した。そうして徳広のトンカツや三井の唐揚げを、切り分けた鹿肉ハンバーグとトレードすることで、痛み分けとした。
 自分からバンビと言い出しておきながら、その肉を口に運ぶことにためらいはあったが……申し訳ないことに、鹿肉ハンバーグはとても美味しかった。
 罪悪感の昼ご飯を終えて建物の外へ出ると、入り口の近くにある丸太小屋でソフトクリームを売っていた。
「茄子(なす)のソフトクリームだってさ。何かキモい。みんなで食おうよ」
 和樹の目が爛々(らんらん)としてくる。キモいと言いながら、食べようと誘ってくる。鹿肉の時もそうだったが、和樹は珍しいもの、かわったものにとびつく傾向がある。
 自分は、同じ金を払うなら、確実に美味しいものが食べたい。徳広はノーマルなミルクのソフトを、三井はチョコ、和樹一人が茄子を選び「何か不味(まず)い」と眉を顰(ひそ)めていた。「何か茄子の味がする」とも。茄子のソフトクリームなので当たり前だろう。なぜ買う前にそれに気づかないんだと百回ぐらい問うてみたい。
 店の前、大きく張り出した庇(ひさし)の下にあるベンチに三人は並んで腰掛け、アイスを食べる。空は晴れあがり、天気はすこぶるいい。キャンプ日和だ。
 夫婦と子供の家族連れ、山登りなのか装備バッチリの老人の集団やら、道の駅の客は多種多様。そんな中、いい年をした男三人がソフトクリームを舐(な)める様は人からどう見えるんだろう。……まぁ、どうでもいいことだが。
 ぼんやり人を眺めていると、目の前を男女の二人組が横切った。入り口脇に積み重ねられた薪(まき)を見ている。もしかしてあの二人もキャンプだろうか。
 二人とも年は二十代後半ぐらい。女の子は長袖のシャツにジーンズ。髪は低い位置でポニーテールにしている。垂れ目の丸顔が子犬に似ていてかわいいが、全体的に地味な印象だ。
 男は痩せて背が高く、白雄に似た美形だ。徳広はチラリと自分の着ている服を見た。Tシャツにカーキ色のズボンとあの男と同じなのに、違う。見た目が違う。スタイルの差をこれでもかと見せつけられて、胸の中がモヤッとする。服をすぐ着替えたい。上か下、どちらかだけでも替えたい。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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