よみもの・連載

捜し物屋まやま

第一回 前編

木原音瀬Narise Konohara

 地味な彼女と男前は、互いに互いの肩を小さくぶつけ合い、吐き気がするほどイチャイチャしながら薪を吟味している。
 彼らは何も悪くない。普通に薪を選んでいるだけ。それなのに黒い感情がこみ上げてくる。こんなんじゃ駄目だ。徳広は想像力をフル動員した。あそこでイチャついてるのは、自分とミイミイ、ミイミイだ。
「私、薪とかわかんない。祐さん、選んで〜」
 ミイミイが自分の腕に絡みついてくる。
「薪はね、広葉樹だと燃えにくいけど火が長持ちして、針葉樹だと燃えやすいんだよ」
「すごーい、よく知ってるね」
 ボチャッと音がして我に返ると、ソフトクリームの上の部分が地面に落ちていた。
「ああああっ」
 妄想世界に強制トリップしている間に、現実世界でやらかした。和樹には「祐さん、何やってんだよ〜」と笑われる。
「かわいそうだから俺の茄子、分けてやるよ〜」
 和樹に茄子アイスを差し出されて「いっ、いらないからっ」と体を引き、顔を背けた。その先で、あの二人と目が合った。地味な彼女は男の腕を掴(つか)んだまま、こちらを見てクスリと笑った。いい年の男たちが、アホみたいに騒いでいると思われた。二人の視界から消えたい。虚しく残ったコーンをバリバリと噛み砕いて「遅くなるから、もう行くよ」と徳広は立ちあがり、車に向かった。
 ねっとりと後口を引くソフトクリームを温くなったウーロン茶で流しつつ、車をひた走らせる。何だか和樹が静かになったと思ったら、アネ7を大音量でかけているにもかかわらず、後部座席で横になって寝ていた。……寝ていた。
 キャンプ場の看板が左手に見え、左折して三百メートルほどゆくと、広い駐車場が見えてきた。土日なので混んでいるだろうと思っていたのに、予想に反して車はまばらだ。
 ひとまず駐車場に車をとめて管理人小屋に行く。胸元ほどの高さの窓の外にテーブルが置かれ、管理人は小屋にいながら窓越しに手続きが行えるようになっている。八年前のロックフェスのTシャツを着た、四十前後とおぼしき管理人の男は、徳広にキャンプ場の説明をする間に、三回あくびをした。その背後にあるソファでは、海水パンツ姿の男の子が二人、丸いおもちゃを取り合っている。管理人の子供だろうか。季節は早いのに泳ぐ気満々。こうして見ると、和樹の好奇心は子供レベルなんだな〜と納得してしまった。
 ここのキャンプは設営自由、道でなければどこにテントを張ってもいいし、車もとめられるので、受付を終えると、さっそく、テントの設置場所を探した。駐車場の車の数から予測はついていたが、テントの数はとても少ない。
 日程が決まった後、徳広は予約を入れようと近場のキャンプ場のホームページを見たが、予約でいっぱいだった。休みの日だしなと思って第二候補のキャンプ場を見るとそこも満員。嫌な予感がした。キャンプ場が取れなくて中止とかありえない。必死になって、ホームページもない小さなキャンプ場までしらみつぶしに電話したが、どこも空いてない。唯一予約がとれたのがここのキャンプ場。都心から遠い上にかなり山奥なので敬遠されたようだ。
 和樹が「ザ・キャンプって感じで林の中がいい」と主張するので、管理人小屋に近く、見晴らしがよくて炊事場やトイレの近い平地を避けて、北に向かう道から右に十メートルほど入った林の中にした。周囲に他のテントはなく、木立や草むらで周囲から見えづらくプライバシーは完全確保。徳広も男ばかりのキャンプを人目にさらしたくないという思いがあり、ちょうどよかった。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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