よみもの・連載

捜し物屋まやま

第一回 前編

木原音瀬Narise Konohara

 場所も決まり、さっそく設営開始。近くの茂みに車を移動させ、ひとまずブルーシートを敷いてその上に荷物を全部出した。女の子もいないし、堂々と「HOW TO キャンプ」を持ち出して読んでいると、和樹が勝手にテントを袋から出しはじめた。
「ちょっ、ちょっと待って! 最初はタープからだよ」
 徳広が止めると「どれからでもいいじゃん。タープって何?」と唇を尖らせる。
「タープってのは日よけだよ。この本にも、タープからって書いてあるでしょ!」
 これが証拠とばかりに本を広げて指さすと「はいはい」と生ぬるい相づちを打ってきた。タープは一枚のビニールシート状のものになるが、慣れていないこともあり、どうしてもたわみができてピンと張れない。しかもペグという固定する道具が扱いづらい。
「祐さん、ビニールが昆布みたいに波打ってんだけど」
「もっとそっち、ちゃんと引っ張ってください……ああっ、紐(ひも)が解けたっ」
「和樹君、それペグが逆、逆だから!」
 三人でギャアギャア騒ぎながらとりかかり、張り終えるのに一時間かかった。それだけで疲れて、本丸のテントを張る前に、タープの下に椅子とテーブルを置いて一休みする。じんわりと汗ばんだ肌に、そよ風が心地よい。
 和樹はさっそく二本目のビールを開け、ぐびっと飲んだ。
「もうさ、テント張るのやめない? 車で寝ちゃえばいいじゃん」
 実は徳広もちょっと考えた。こんなに面倒くさいなら、二人はバンガロー、残りの二人はいっそ車中泊にしようかと。しかしジープとはいえ、車内は狭い。それに車の中で寝るなら場所なんてどこでもいいわけで、わざわざキャンプ場に来なくてもよかったんだと、どうしようもない真理に行き着く。
「いや、テントは張る」
 徳広の決意に、和樹は「マジで」とため息をつく。
「あっ」
 緑が萌ゆる大自然の中にいても、熱心にスマホの小さな画面に見入っていた三井が、小さく声をあげた。
「どうしたの?」
 三井は口も半開きのまま顔をあげ「いや、その……何でもないです」と笑うが、頬が引き攣(つ)っている。どの角度から見ても『何でもない』という顔ではない。
「何かあったんじゃないの?」
 追及しても、頑(かたく)なに首を横に振る。
「えっ、なに。俺もすげー気になる」
 和樹も参戦してきた。三井は「その……」とモゴモゴと口ごもった後で「ここのキャンプ場、鹿や猿がよく出るそうです」と目を伏せた。山の中だし、ありそうなことだ。鹿に至っては、昼に食している。驚く情報でもない。
「ほんと、どうしたのよ?」
 下から顔を覗き込む。三井は両手でこめかみを押さえて「言っても怒りません?」と聞いてきた。
「怒らないよ。何を怒るっていうの?」
 三井はフーッと細く息をついた。
「ここに来る時、他のキャンプ場はどこも予約がいっぱいだったのに、ここだけ空いてたって言ってましたよね」
「うん。山奥で利便性はないし、ある意味穴場だよね」
「他にも理由があるみたいです」
 ボソリと三井が呟く。設備が悪いとか、そういうことだろうか? トイレも水場もそこそこ綺麗に見えたが……。徳広が首を傾げると、三井は「ちょっと事故が……」とおそるおそる切り出した。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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