よみもの・連載

捜し物屋まやま

第一回 前編

木原音瀬Narise Konohara

「事故ってどんな?」
 椅子にふんぞりかえったまま、和樹が促す。
「あの……楽しい気分に水をさすつもりはないんです。このキャンプ場で、みんながどんな遊びをしているのか気になって検索してたら、色々と出てきて……。ここ、事故が続いてるんです。去年の夏、岩場から川に落ちた二人が亡くなって、秋にはテントの火事で一人。冬も一酸化炭素中毒で三人。こういうことがあった後か、その前からなのかわからないですが、子供の幽霊が出るらしいって噂になって……し、心霊スポットになってて……」
 背筋がゾワッとする。両腕を見ると、プツプツと鳥肌が立っていた。そっち系の話は苦手だ。
「えーっ、マジで。けどそのおかげで空いてたなら、別にいいんじゃね?」
 和樹は平然としている。強がっている風もなく、どうでもよさそうだ。バンビは駄目で幽霊はオッケーとか、繊細なんだか無神経なんだかわからない。
 和樹は兎も角、三井はビビっている。知っていたら、キャンセル待ち覚悟で他のキャンプ場にしていただろう。何かあるとは思わないが、トラブル回避の大原則は、最初から怪しいものに関わらないことだ。これは仕事にも共通している。
 曰(いわ)く付きのキャンプ場と判明したところで、本格的に嫌になる前にテントを張った。タープである程度の要領が掴めたので、三十分ほどで仕上がった。
 テントの設置を面倒くさがってた癖に、できあがると真っ先に中に入っていったのは和樹だった。
「おお、いい感じ」
 テントの中でゴロゴロと転がりはじめる。それが楽しそうに見えて徳広も入り、それに三井も続いてきた。一人だと快適でも、男三人が入ると二人用のテントは狭小物件になる。距離が近い。それでもめいめいが好き勝手に寝そべり、しかしすることがないのでスマホを覗き込んだ。
「祐さんさぁ、足どけて。臭い」
 狭いので足と頭を交互にしていたせいで、自分の足はちょうど和樹の顔の横に伸びていた。わざと足を顔に近づけてやると「だから臭いって」と和樹が体をひねり、テントが大きく揺れた。
「テント、倒れますよ〜」
 三井が間延びした口調で注意してくる。その手許にあるスマホからは、アネ7の「ハートのティアラ」が流れてくる。
 これってどうなんだろう。和樹の事務所で、いつものメンバーでメシを食って、その後にダラダラしているという……日常の光景じゃないか。この状況に不満がある訳でもないし、自分的にはテントの中でゴロゴロして、SNSでミイミイの情報を収集していても、全くもって何の問題もないが……。
「外へ行かない? せっかく時間かけてキャンプに来たんだしさ」
 徳広の提案で三人はいったん外へ出た。タープの下、ひとまず椅子に腰掛けたものの、場所が変わっただけ。することがない。キャンプの醍醐味はたき火と「HOW TO キャンプ」にあったが、まだ日中だし多分暑い。そういえば広場でフリスビーをしている若いグループを見かけた。しかし自分は遊び道具の類は何も持ってきていない。
「トランプでもする?」
 和樹の提案に、キャンプに来て、トランプ……と内心思う。
「持ってるの?」
「いや、持ってないけど何となく」
 持ってないのに、なぜ提案する? エアトランプでもするつもりか? その思考回路がわからない。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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