よみもの・連載

捜し物屋まやま

第一回 前編

木原音瀬Narise Konohara

「和樹君、曰く付きでも平気なんだね」
「平気っていうか、幽霊よりもさ、生きてる人間の方が恐くない?」
 のらりくらりと生きているようなのに「生きている人間の方が恐い」と口にする。悟るほど人から嫌な目にあわされたことがあるんだろうか。
「それに俺、そーゆーの見たことないし」
「捜し物で占いやってるじゃない? あれってそういう霊的な何かと繋がっているんじゃないの?」
 和樹は「さぁ」と肩を竦(すく)める。
「何となくやってるだけだし」
 意味がわからない。自分でも説明不可能ということか? まぁ、感覚というものはもとから説明できるものではないのかもしれないが。
 そういや捜し物を占う時は、白雄とセットでないといけない的なことを前に聞いた。兄弟で足りない部分を補い合うということなんだろうか。……いや待て。白雄と和樹は血が繋がっていない。こういうパターンは、血族だからこその共同作業なんじゃないのか。他人でも共同作業をしちゃいけないわけではないが、イマイチ説得力が……自分の中でこうだろうと考えていたパターンと違うので、違和感がある。とはいえ、二人が占いで捜し物をしているというのは事実だ。
 日射しが西に傾いてきている。和樹は平たい石を見つけて川へと投げた。石が水面を跳びながら走っていく。三、四回跳ねただろうか。振り返った和樹が「祐さん、できる?」と得意げに挑発してきた。
 徳広は川岸にゆき、平たくて跳ねそうな石を吟味した。手になじむ重さ、そして薄さ共に申し分ないものを見つけ、水面へ放つ。タタタタッと音がしそうな軽快なリズムで石が跳んでいく。多分、十回は跳ねたはずだ。
「嘘だろ……」
 和樹は目を丸くしている。徳広は実力を遺憾なく発揮した右手をぽんぽんとたたいた。
「父方の田舎で鍛えた腕をなめてもらっちゃ困るね。田舎じゃ、五回以上跳ねない子供はハブられる過酷な世界だから」
「ちきしょう!」
 和樹はムキになって周囲の石を拾い集める。その後ろ姿を勝ち誇った気分で眺めていると、三井が「あの」とすり寄ってきた。
「……ここ、人が亡くなってるじゃないですか」
 声を潜める三井の顔は真剣だ。
「事故現場の検証サイトがあるんですけど、この写真だとあそこですよね」
 見なきゃいいのに、なぜ見る。なぜ恐怖を自己増幅させる……お前はマゾか、マゾなのかと思いつつスマホを覗き込む。事故現場の状況を、ぬいぐるみで再現するという個人サイトだ。サイトの主は岩の上にぬいぐるみを置き「ここから落下」と吹き出しで台詞を入れていた。どうやらその岩の写真がここから二十メートルほど先にある人の背丈ぐらいの高さの岩と似ている。いや、これは似ているじゃない。【完全に一致】だ。
「あの岩の下、浅くなっているそうです。けど水の流れで遠近感がわからなくなってて、岩の上から川に飛び込んで怪我をする人がたまにあったようです。で、去年死んだ子は二人とも小学生で、頭から飛び込んで溺れて、その子を助けようとした子も……」
 自分らは数ヶ月前に子供が亡くなった場所の側にいる。溺れた子供たちは、この近くで引き上げられたかもしれない。突発的な寒気に、徳広はブルッと身震いした。
 何の前情報もなしに見れば、ここは蛍が見られる、癒やし効果抜群の綺麗な川原だ。しかし色々と知ってしまった後だと、異様な事件現場になる。……いや、そんなに神経質になる必要はないんだろう。自分が普段使っている通勤路やコンビニへの近道だって、交通事故があったり、人が殺された場所かもしれない。要は知らなければ、問題ないのだ。
 しかし、しかしだ……時間と金をかけて遊びにきて、わざわざ気持ちの悪い場所でメンタルを落とす必要はあるのか? 全くもってないと言える。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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