よみもの・連載

捜し物屋まやま

第一回 前編

木原音瀬Narise Konohara

「友人とキャンプに来ている者ですが……」
 男が曖昧に首を傾げる。キャンプ場にキャンプ以外の目的で来る人間がいるのか……と即座にセルフツッコミを入れてしまう。
「その岩場は去年、事故があったんですよ。怪我をする人も多くてですね……」
 女の子は「えっ」と小さく声をあげ、男は露骨に眉を顰める。その顔に『つまんないこと言って、邪魔すんじゃねえ。失せろオッサン』と書かれているように感じるのは、自分の被害妄想か?
「そうなんですか?」
 女の子が自分に不審感を持っていなさそうなのがせめてもの救いだ。
「大人の方なら大丈夫だと思うんですが、注意するにこしたことはないかと。余計なお世話かなと思ったのですが、私も気になってしまったもので……お節介ですみません」
 女の子は「いいえ、ご親切にありがとうございます」とぺこりと頭を下げる。男は「あぁ、そうでしたか」と言葉こそ丁寧だが、どこかそっけない。これでよかったのか悪かったのかはわからないが、自分は注意した。これから先、怪我をしてもそれは本人の責任だ。
 三人のもとに戻ると、和樹に「何話してたの?」と聞かれた。
「いや、あの岩場は危ないってこと伝えにさ」
「ふうん。祐さん、優しいね」
 話をしているうちに、二人の姿は岩の上から消えていた。助言を受けて移動したか、それとも声をかけてくる男が気持ち悪くて離れたかったか……何にせよ、事故の可能性が一つ減ったのは確かだ。
 白雄も合流したので、自分たちの陣地であるテントへと戻る。そして暗くなる前に夕飯の準備をはじめた。といっても、焼き肉なので火をおこし、野菜を切って焼くだけ。ご飯を炊くのは面倒だったので、焼きそばを持ってきてある。
 白雄と三井に炊事場で野菜を切ってきてもらい、徳広と和樹はバーベキューコンロに火をおこした。着火剤の力を借りて、いい感じにすぐ火がつく。肉も準備できたし、後は野菜班が戻ってくるのを待つばかりになった時、徳広は気づいた。
「ない」
 ないのだ。箸と皿が。どれだけ探しても見当たらない。備品の準備は石橋の担当だったので、奴が買い忘れたのだ。もしくは集合時に持ってくるつもりだったのか……どういう理由にしろ、ないのは事実。緊急事態だ。
「箸と皿がない」
 告白すると、和樹は「マジで?」とつぶやいた。管理人室の横に小さな売店はあるが、午後四時……一時間前に閉店している。ここから一番近いコンビニはどこだ? 道の駅からこっち、見かけた記憶がない。スマホで検索すると、近くのコンビニまで車で行っても相当時間がかかる。最悪、皿はなくてもなんとかなるが、箸がないのはやばい。乳幼児期の手掴み食に回帰の上に、素手じゃ熱くて何も焼けない。
「詰んだ」
 徳広がスマホを握りしめてうなだれると、ぽんと肩をたたかれた。
「探しに行こうよ」
 ニマッと和樹が笑う。
「何を?」
「皿と箸のかわりになるもの」
 和樹は尻ポケットから万能ナイフを取り出した。
「いい感じの木ぎれがあったら、削るし。皿はでかい葉っぱかな」
 和樹の万能ナイフは、ぴかぴかと光っている。
「……和樹君さ、それ使ったことある?」
「いや、全然。ってかこの前買ったばかりだし。なんかこういうの持っていると、かっこいいな〜と思って」
 使ったことのない道具を手に、箸を作ると軽く言う。葉っぱの皿とか、どこの石器時代だよと思うが「えーっ、忘れたの」と文句を言われるより、百倍前向きだった。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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