よみもの・連載

捜し物屋まやま

第一回 前編

木原音瀬Narise Konohara

 三井と白雄が戻ってきたので、二人に火を任せて徳広と和樹は箸用の木ぎれと皿用の葉っぱを探す旅に出た。立木の枝を折ることはできず、落ちている細木を探す。たき火用にほかのキャンパーに拾われたのか道ばたにいい具合の細木はなく、薄暗いし虫がいそうで避けていた木立の中に入ってみる。何とか細木は確保したものの、皿になるようなでかい葉はない。そういう大きな葉が存在するのかどうかも怪しい。ゴミを軽量化しようと、すべての食材をビニール袋に小分けにしたのが今となっては悔やまれる。発泡トレーだったら、皿のかわりにすることができた。
 二十分も歩いていないのに、だんだんと薄暗くなってきた。最悪、皿はなしで、ビニールに入れた焼き肉のタレをみんなでシェアして……と諦めかけていると、目の前の木陰がガサガサッと揺れた。
 ひいいっ、と徳広は隣の和樹にしがみついた。すると向かいからも「きゃあっ」と悲鳴があがる。木陰から姿を現したのは、岩場にいた女の子だ。
「あ、なんかすみません。その、驚いちゃって……」
 徳広が謝ると、女の子も「いえ」と首を横に振った。女の子の視線が、和樹の手許に向けられる。
「たき火用の木ぎれ、集めてるんですね」
「違うよ。これは削って箸にするの」
 和樹の返事に、女の子は「はっ?」と口をぽかんと開ける。
「箸と皿、持ってくるの忘れてさ〜。売店閉まっちゃったし、コンビニ遠いし。こういうのナイフで削って、箸にしようかなと思って」
 女の子は目をぱちぱちさせている。そして遠慮がちに「あの、よかったら箸とお皿、お分けしましょうか」と申し出てくれた。
「多めに持ってきてるので……」
「えっ、マジで! サンキュー」
 神は存在した……キャンプ場に。徳広は薪売り場と、ぽつりと張られた小さなテントに、嫉妬心丸だしの邪念を送った自分を猛省した。
「じゃ、とってきますね」
 往復させるのは申し訳ないので、小さいテントまでついていく。歩きながら話をするうちに、彼女は陽奈(ひな)という名前で、都内のコールセンターに勤めているのがわかった。どうりで、若い割に口調が丁寧だなと思っていた。陽奈さんは付き合って一ヶ月目の彼氏と、初めてキャンプに来ていた。
 あの小さなテントに辿り着く。陽奈さんは「四人なんですよね」と箸と皿を、人数分よりも気持ち多めに分けてくれた。
「こんなに、いいんですか?」
 手がちょっと震えた。優しさに恐縮してしまう。陽奈さんは「どうせ余っちゃうし」と笑う。タレ目と控えめな笑顔がかわいい。本当にいい子だ。天使か?……嫁にしたい。
「そういや陽奈ちゃんのイケメン彼氏、いないね」
 出会って五分もせぬうちに、和樹はもうちゃんづけで呼んでいる。この軽さを見習いたい。
 陽奈さんの彼氏は、川で注意した自分を疎ましく感じていたようだったので、自分的には顔を合わせなくてよかったのだが……。
「彼、管理人小屋に行ってるんです」
 陽奈さんは苦笑いする。
「私、スマホなくしちゃって。ここに来た時にはあったのに、どこにもなくて。それで、管理人小屋に届いてないか聞きにいってくれたんです。実はさっきもそれを探してて……あのへんで私も木ぎれを拾ってたから」
 天使の彼女が困っていて、そしてここには捜し物に最適の男がいる。本職が切り出す前に「実はですね!」と徳広は和樹の両肩を掴んで彼女の前に差し出した。
「実はこの彼、捜し物の名人なんです。箸と皿のお礼に、スマホを探させてもらえませんか」
 陽奈さんは「捜し物の名人?」と首を傾げる。
「俺、弟と一緒に捜し物屋をやってるんだ。占いっぽい感じだし、百発百中じゃないけどね。そういうの嫌じゃなかったら探すけど、どーする?」
 占いで捜し物とか、ひょっとして気持ち悪がられるかな……と思ったが、陽奈さんの目はキラキラして「何それ、おもしろそう」とノッてきた。
「じゃ、サクッと探そっか。アイテムないけど、大丈夫だろ。白雄呼ぶわ」
 陽奈さんが「しお?」と反芻する。
「占いね、弟とセットでやってんの。てか二人いないと探せないんだよね〜」
 彼女に向かって、和樹はニッとほほえんだ。

(次回は11月20日アップ予定です)

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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