よみもの・連載

捜し物屋まやま

第一回 後編

木原音瀬Narise Konohara

 もともと張っているテントの位置が近かったので、白雄(しお)はものの三分もせぬうちに現れた。陽奈(ひな)さんは、白雄の顔を見るなり「あっ、かっこいい」と呟き、徳広(とくひろ)の胸に一瞬、嫉妬の炎が燃えた。
「こいつ、弟の白雄。生まれつき喋れないけど、気にしないで」
 さっくりと和樹(かずき)は説明するが、突然のことに陽奈さんは「あっ、えっと」と戸惑っている。
「白雄、この人は陽奈さん。俺らに箸と皿を分けてくれた親切な人だ。彼女、スマホなくしたんだってさ。探したいんだけどOK?」
 白雄はこくりと頷いた。そして陽奈に向かってにっこりと愛想よく微笑むと、和樹の後ろに立ち、その肩に両手を置いた。
「じゃあ陽奈ちゃん、名前と生年月日、教えて。あと生まれた時間もわかると、見つかる確率上がるよ」
「……年の、五月十二日。生まれた時間はわかんないけど、夜明けぐらいだったってママが……」
「おい陽奈、何してるんだ」
 苛立(いらだ)った男の声に、その場にいる全員が振り返った。陽奈さんのイケメン彼氏が大股で近づいてくる。
「その人たちはどうしたんだ」
 怒りを隠そうともしない。何も悪いことはしていないのに、体が竦(すく)む。陽奈さんも彼氏の勢いに押されておどおどしている。
「……えっと、お箸とお皿を忘れたみたいだから、少し分けてあげたの。そしたらお礼に、スマホ探してくれるって」
 彼氏が「探すって……」とこちらに振り返る。
「こんにちは。捜し物屋をやっている間山(まやま)でーす」
 和樹の、どうにもふざけて聞こえる自己紹介に、彼氏が「はっ?」と口を歪める。
「具体的には、探偵に毛が生えた感じっていうか。捜し物っていっても、占いでアタリつけるだけなんで、すぐすむから」
 和樹が両手を組み合わせて、目を閉じガクリとうなだれた。そしていつもの、呪文かお経かわからないものを唱えはじめる。彼氏はぐぐっと眉間に皺(しわ)を寄せた。
「君たち、いったい何をはじめたんだ」
 騒ぐ彼氏に、陽奈さんも青くなっている。
「それは何かの宗教か? やめてくれ、気持ち悪い」
 早々に退散した方がいい雰囲気だが、二人はもう占いに入ってしまっていて、やめる気配がない。このスタイルを最初に見た時は、自分も「何だこれ」と衝撃だったが、すっかり見慣れて初見の違和感を忘れていた。フッと唱える声が途切れ「お前のスマホは……」といつもの和樹と違う、やや低いトーンで喋りはじめた。
「男が持っている。白いTシャツ、カーキ色のズボン……」
 陽奈さんと彼氏、四つの視線が同時に徳広へと向けられる。スッと血の気が引いた。
「ちっ、違う。俺じゃないよ」
 なっ、何てことを言ってくれるんだと、慌てる自分をおもしろがってか、俯(うつむ)いた和樹から「ククッ」と低い笑い声が響いた。
「男が持っている……赤き小さな鞄」
「赤い鞄?」
 陽奈さんの目が、彼氏がかけている小ぶりのメッセンジャーバッグを捉える。確かに赤い。そして彼氏は、見た目の印象は全く違うが、徳広と同じ色の服を身につけている。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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