よみもの・連載

捜し物屋まやま

第一回 後編

木原音瀬Narise Konohara

「それは俺の鞄に陽奈のスマホが入っているってことですか?」
 彼氏の声が刺々しい。
「赤き鞄の、後ろのポケット」
 そこまで告げると、白雄が兄の肩から手を離した。和樹が顔をあげる。
「うっかり入れちゃったってことがあるかもしれないからさ、だまされたと思って一回見てみたら? メッセンジャーバッグの後ろのポケットのとこ」
 和樹にうながされても、彼氏は鞄を探そうとしない。こちらを睨みつけるだけだ。
「陽奈のスマホがなくなった時、俺は自分の鞄も探しました。あなた方はたまたま目についた、スマホが入りそうな持ち物を適当に言っただけなんじゃないですか。川でもそうだったけど、どうしてくだらないことでいちいち俺たちに関わってこようとするんですか。何が目的なんですか」
 これはまずい。徳広は「あの……」と切り出した。
「故意にではなく、たまたま……たまたまなんです。俺たちは……」
「言い訳は聞きたくありません。もうこちらに関わらないでください」
 彼氏は陽奈さんの腕を掴(つか)むと、テントの中に引っ込んでいった。
 皿と箸は手に入れられたものの、どうにも後味の悪いまま自分たちのテントに戻る。午後六時半を過ぎ、日も沈んで腹が減ったので、すぐにバーベキューをはじめた。
「祐(ゆう)さん、この肉めちゃうまだね」
 和樹は死肉を食らうハイエナの勢いでガッつく。いつも控え目な三井(みつい)も「美味しいですねえ」と目尻を下げ、箸が止まらない。そりゃそうだろう。A5ランク、最高級だ。来るはずだった女の子にケチ臭い男だと思われたくなくて、スペシャル高級肉にしたのだ。
「そういやさぁ、陽奈ちゃんの彼氏メチャ怒ってたね」
 和樹が口の中を肉で満杯にしたまま、モゴモゴと呟いた。
「俺らが彼女を取り囲んでたからさ、ナンパしてると思って嫉妬したのかなぁ」
 徳広は食っていた肉が喉に詰まりそうになり、大きくむせ込んだ。何が何をどう解釈したら「彼氏が俺らに嫉妬」なんて結論が出せるんだ? こう言っては身も蓋もないが、自分はデブで、和樹はチビだ。顔の造りはよく見積もって平均値よりやや下。容姿勝負なら、陽奈さんの彼氏に完敗だ。対抗できるのは白雄ぐらいだろう。
 しかし「わかってるか? 俺らってかなりイケてないんだぜ」とはっきり口にすることもできず「占いで探すってことに拒否反応があったんでしょ」とサクッと流した。
「俺らの探し方が変わってるって自覚はあるけどさ、それにしてもメチャクチャ感じが悪かったっていうか……」
 結局、と三井が話に入ってきた。
「彼女がなくしたっていうスマホは見つかったんですか?」
 和樹は割り箸でテーブルの端をカンカンとたたいた。
「わっかんね。鞄の中って教えてやってもさぁ、彼氏が探さないんだもん」
 和樹はお手上げとばかりに割り箸スティックを高く上げる。その隙に手塩にかけて焼いていた肉を白雄に奪い取られて「えっ、おま、嘘だろ! 返せ」と怒っていた。
「真実は闇の中、ですか」
 三井がビールを一口飲む。彼も酒は飲めるが、行きの車の中では自重してくれた。本来はこうあるべきだろう。
「スマホ、鞄の中にあったよ」
 不意に和樹が喋りだした。
「えっ、けどさっきはわからないって……」
 徳広が問い返すと「あったよ。俺、わかった」と、和樹は戸惑う表情とは裏腹な自信満々の口調で答えた。そして勢いよく振り返ると隣に座っている白雄を睨み、「お前、暑い。くっついてくるな」と椅子を引き離し、距離をとった。珍しく苛立っている。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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