よみもの・連載

捜し物屋まやま

第一回 後編

木原音瀬Narise Konohara

 場の空気が重くなる。それを察したのか、和樹が明るい口調で「飯が終わったらさ、みんなでもっかい川に行こうよ。蛍見にさ〜」と提案してきた。
 途端、三井の顔が曇る。
「蛍見物はさ、自由参加でいいんじゃないかな」
 徳広が助け船を出しても、和樹は「大丈夫! ユーレイなんて全然恐くないって!」と蹴散らしてくる。
「いやいや、気持ちの問題だから。嫌な人は無理しなくてもいいでしょ」
 白雄がこめかみの横で、指をくるくる回す。手話ではないが、付き合っていくうちに「わからない」というニュアンスであることはわかるようになった。
「ここのキャンプ場、去年から水の事故や火事で、何人も亡くなってるんだよ。幽霊が出るって噂もあってね」
 説明すると、白雄は「ああ、それで」という表情でコクコクと頷く。白雄が和樹に振り返り、ぱくぱくと口を動かす。それを見た和樹の表情がスッと真顔になる。
「白雄くん、何て?」
 三井が聞いても和樹は答えない。白雄はスマホを取り出し、文字を入力してこちらに見せた。
『今日、人が死ぬよ。また幽霊が増えるね』
 スマホの液晶に浮かび上がっている文字に、徳広はぎょっとした。白雄を見ると、ひょいと肩を竦める。
「死ぬって……また事故があるってことなの?」
 声が震える。白雄は首を横に振り、再び文字を打ち込む。
『事故じゃない。女の子が彼氏に殺される』
 全身が冷たくなる。徳広は「いっ、いや……それはね、さすがに……いやね……」と意味のない言葉を羅列してしまう。白雄はスマホを手元に引き寄せ、また何か打ち込む。
『女の子のスマホ、彼氏がわざと隠した』
 誰もバーベキューに手をのばさなくなる。じゅうじゅうと肉や野菜の焼ける音がやたらと耳につく。これは食ってるどころじゃない、非常事態だ。白雄の書いたことを鵜呑みにするわけではないが……あの彼氏はスマホの場所を教えたのに、形だけでも鞄を探そうとしなかった。鞄にスマホがなければ、彼氏は堂々と、証拠と共に自分たちをインチキだと非難できた。それをしなかったのは……。
「本当に本当に陽奈さん、殺されるの?」
 聞いてしまったら、聞かなかった過去には戻れない。徳広の問いに、白雄はしばらく考えていた。そしてスマホで見せられた最終的な返事は『わからない』だ。
「わからないの? さっきは殺されるって書いたよね? もしかして、捜し物のついでに、人の……その、未来とかもわかっちゃったりしたの?」
「わかるわけないじゃん」
 白雄のかわりに、和樹が答える。
「俺らは生年月日と名前を聞いて占って、アタリをつけるだけだよ」
「けどさ、それにしては君たち、どこに何があるとか具体的だよね」
 和樹が口を横に引き結ぶ。すると白雄がスッとスマホを差し出してきた。
『人の未来はわからない』
 そう書かれていた。差し出した状態で、再び入力してくる。
『昔のことなら少しわかる。名前と生年月日を知らないから詳しくはわからないけどあの男、三人殺してるんじゃないかな』

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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