よみもの・連載

捜し物屋まやま

第一回 後編

木原音瀬Narise Konohara

 もう何をどうコメントすればいいのかわからない。焼き網の上で、A5ランクと野菜が炭になっていく。白雄のスマホにリアルタイムで表示される文字を読むのが……恐い。
『彼氏の【後ろ】にいる人たちが言うんだ。私、この人に殺されたのって』
 二人は何となく……そっち系かもと疑ってはいた。けどはっきり聞いたことはない。たとえそっち系だとしても、自分には関係なかったからだ。
「……君たちさ、ひょっとしてそういうモノが見えちゃう人?」
 和樹は無言だが、白雄が右手の親指で、人差し指を小さくはじく。それは「少し」のジェスチャーだ。
 三井がガタガタと震えながら、スマホを取り出した。
「けっ、警察に通報しましょう。キャンプ場にさっ、殺人鬼がいるって。今ならまだ間に合いますよね」
「三井っちさぁ、ケーサツに何て言うつもりなんだよ」
 和樹がため息をつく。
「男の後ろに憑(つ)いているユーレイに聞きましたって馬鹿正直に言ってもさ、電話切られるだけだよ」
 冷たく聞こえるが、和樹の言い分は正しい。そんな通報で警察が来るとも思えない。かといって、この現状は無視できない。
「白雄くん、あのさ……それって、気のせいとかだったり……しないかな?」
 一縷(いちる)の望みをかけたが、白雄は頭を横に振る。楽しいバーベキュー会場は、まるでお通夜の雰囲気だ。
 今こうしている間も、彼女は危機にさらされているかもしれない。けれど確実に殺されるかどうかはわからない。彼氏と遊び、明日、楽しく帰路につく可能性もある。
 彼女は赤の他人だが、自分たちは箸と皿を分けてもらった。親切にしてもらった。全く関係がないわけじゃない。
 じゃあ、どうすればいい?
「……あの……」
 おずおずと三井が声をあげた。
「ほっ、蛍……蛍を見に行きませんか」
 川へ行く途中に二人のテントはある。彼女の様子を見に行く口実だ。この世のものではない人々が、苦手なはずなのに……。
「そうだな、みんなで蛍を見に行こうか」
 徳広も同調する。蛍を見たがっていた和樹が「まぁ」とテンション低いのが、この状況の深刻さをあらわしている。そんな中、白雄の表情だけが……うっすら笑っているように見えた。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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