よみもの・連載

捜し物屋まやま

第一回 後編

木原音瀬Narise Konohara

 すっかり日が落ちたキャンプ場は、闇に包まれている。管理人小屋や炊事場といった施設の近くは明るいが、道の外れなんて街灯もなく暗闇だ。
 ランタンを手にした徳広を先頭に、四人とも無言のまま暗い道を川へと向かう。ザッ、ザッと土を踏む足音が耳につく。昼間は暑いぐらいだったのに、夜はグッと気温が下がる。三井は「ちょっと肌寒いですね」とパーカーを羽織っていた。
 自分たちのテントのある場所から三分ほどゆくと二人のテントが見えてくる。外にテーブルとチェアはあるが、人はいない。テント越しにうごめく影が見えるので、中にいるようだ。
 彼女が無事か確かめたいが、彼氏があの状態では声をかけることもできない。道から少し奥まった場所にある二人のテントを眺めながら、通りかかったふりをしてゆっくり歩くが、彼女が外に出てくる気配はない。
「彼女、まだ大丈夫ですよね?」
 三井が後ろから小声で聞いてくる。
「テントの中にいるんだろうけど……俺にもわからないよ」
 結局、自分たちは外から中の様子を推測することしかできない。
「ちょっと試してみる?」
 和樹が足許にある小石を拾った。
「それ、どうするの?」
 返事をせず、和樹は「明かりを消して、みんな林の中に隠れて」と石を握りしめた。意味がわからないまま、道の反対側の木立に入ってランタンを消す。すると和樹は手にしていた小石を二人のテントのある方角に向かって投げつけた。
 テントの側の木に当たったようで「カンッ」と大きな音がした。テントが揺れ、中から彼氏が顔を出す。
「どうしたの?」
 陽奈さんの声が聞こえる。
「なんか音がしたけど……猿かな」
 彼氏はきょろきょろと周囲を見渡した後、再びテントの中に引っ込んだ。
 声が聞こえた。彼女は大丈夫だ! 徳広はほっと胸を撫で下ろしたが、今は無事だったというだけで、これから先はわからない。何かおこるという確証も、おきないという確証もない。
 木陰に隠れていた和樹が出てきて「川、行こうか」と声をかけてきた。川は口実で、彼女の安全さえ確かめられたらそれでよかったけれど、このままテントに引き返す雰囲気でもなく、再びランタンの明かりをつけて川に向かった。
 川岸にゆくと、丸い月が大きく見えた。道を歩いていた時は、両脇の木立で月光が遮られていたが、広い場所に出ると明かりなしで歩けるほど明るかった。
「祐さん、ランタン消して」
 和樹に言われるがままもう一度明かりを消す。川岸の草むらにぽっ、ぽっとほのかな光が点滅した。蛍だ。気づけばあちらこちらで光っている。
 小石がごろごろした場所だとお尻が痛いので、あっちには近づきたくないなと思いつつ、例の岩場の手前に徳広は腰掛けた。捕獲禁止の看板も納得するほど、一つや二つ持ち帰っても平気なんじゃ……と誘惑に駆られてしまいそうなほど群れ飛んでいる。
 密やかで、儚(はかな)い蛍に心を奪われたのも一瞬。陽奈さんの件が脳内にぶり返してくる。さっきは無事を確かめられたものの、今この瞬間に彼女が危機に陥っているかもしれないと思うと、そわそわして落ち着かない。とはいえ自分には何もできない。陰からそっと見守るぐらいしか……。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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