よみもの・連載

捜し物屋まやま

第一回 後編

木原音瀬Narise Konohara

 このキャンプ、女の子と楽しく過ごす予定だったのに、どうしてこんなことになったんだろう。楽しいどころか、ストレス満載だ。しかも原因は出会ったばかり、ほぼ赤の他人の女の子。……笑顔がかわいいし、性格も天使だけど。
 落ち着かないのも気になるのも仕方ない。二人のテントの側に戻り、草むらに潜んで一晩中監視をしよう。そうでもしないと、自分の気は収まらないだろう。徹夜か……と悲壮な決意を固めかけた時、ぽんと肩をたたかれた。
「ひいいっ」
 引っくり返りそうな勢いでのけぞると、後ろにいた三井も「ひいっ」と悲鳴をあげた。二人してお互いに驚くという不毛な光景。互いの忙しい心拍が落ち着いた頃合いを見て「なっ、何?」と問い返した。三井は俯き「その、その……」と二度繰り返す。
「……本当に本当に申し訳ないんですけど、ト……トイレ……一緒にトイレに行ってもらえませんか」
 トイレは遠い。暗いし、川だし、いっそその辺で……と脳裏に浮かんだが、気づいた。多分気軽な方じゃない。
「俺、本当にその……霊とか駄目で、心底駄目で……一人で歩くのキツくて……小学生みたいでほんとすみません」
 土下座の勢いで、がばっと頭を下げる。
「いいよ、行こうか。俺も彼女が気になるし」
「あ、俺もおしっこ行く〜」
 話を聞いていたのか、和樹が挙手する。
「お前も来る?」
 和樹が声をかけると、白雄は口をぱくぱく動かした。
「あ、そう。じゃお前はここにいなよ」
 三人がいなくなると、白雄が一人で残ることになる。トイレの後は再びここに戻ってくるということだったので、最終的に和樹と三井がランタンを手にトイレへと向かった。トイレは管理人小屋の側にあるので、行って帰るのに十五分はかかりそうだ。
 川の側にとどまった白雄は、周囲をゆっくりと歩き回り、夜の川辺を楽しんでいる。そんな白雄のまわりに、蛍がスイッと寄ってくる。
 ブブッとスマホが震え、ラインに新しいメッセージが届く。三井からで『女の子はテントの外に出て、たき火をしながら彼氏と飲んでるみたいです』とメッセージが来た。ホッとすると同時に「何だよ」と思った。
「おい、白雄君」
 音もたてずに白雄が近づいてくる。
「三井さんからライン来たけどさ、彼女、彼氏とたき火してるって。キャンプを楽しんでるみたいだよ。物騒な諸々は、君の勘違いじゃないの?」
 そうであってほしいという自分の希望も入っていたが、白雄は迷いなく首を横に振った。かがみ込んで、座っている徳広の手を取り、手のひらに字を書いた。
『あれはあくにん』

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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