よみもの・連載

捜し物屋まやま

第一回 後編

木原音瀬Narise Konohara

「確かに性格はあんまりよくなさそうだけど、イケメンだし」
 イケメンは関係ないだろうと自分で突っ込みを入れていると、続けて白雄はこう書いた。
『ひとごろし』
 背筋がぞわっとする。
『ひとごろし』
 もう一度、書かれる。
『ひとごろし』
「もっ、もういいよ。わかったから」
 慌てて手を引いた。月明かりの下、白雄が笑う。笑うなとは言わないが、なぜ、今この状況で笑うのか、意味がわからない。
 急に白雄と二人でいるのが恐くなる。トイレに行った二人が早く戻ってこないだろうか。戻ってきたら、もうテントに帰ろう。さっさと寝てしまおう。あのカップルはきっと大丈夫だ。恐い話も、きっと白雄の思い込みだ。
 十五分……二十分経っても二人は戻ってこない。もしかしてこちらに来ずに、テントに戻ってしまったんじゃないだろうか。とはいえ「いつ戻ってくる?」なんてラインを入れるのもためらわれる。別に急がせることもないし、急いでもいない。けれど時間がかかっていることが気になって仕方ない。
 白雄は相変わらず周囲をうろつき回り、あらぬ方向を見ていたりする。一人は恐いが、白雄が側にいるのも恐い。和樹の「生きてる人の方が恐い」という言葉を今頃になって思い出す。別に白雄は自分に何か仕掛けてくるわけでもない。ただただ……気持ち悪いのだ。占いの人捜しなんかをやっていて、人より何かちょっと、そういう超能力的な力がありそうだから余計にだろうか。けれど和樹には白雄のような「恐さ」は感じない。
 こんな時こそミイミイだ! 徳広はスマホでお気に入りのミイミイの動画を再生した。……が、充電が厳しい。やばい、やばいと思っていたら案の定、電源が落ちた……。バッテリーは持ってきているが、テントの中。そして電源を失って初めて、和樹と三井に連絡が取れなくなったという事実に気づいた。
「しっ、白雄くん」
 恐い男を呼ぶと、小首を傾(かし)げ、ゆっくりと寄ってきた。
「和樹君にさ、戻ってくるの遅いけど、何かあったの?ってラインで聞いてくれる? 俺のスマホ、充電なくなってさ」
 白雄は徳広の側にしゃがみこみ、和樹にラインを入れる。するとすぐに返信があった。
『三井っちがコケた』
『けっこう流血』
『近くのテントの人に、絆創膏もらった』
『今から戻る〜』
 ポンポンとメッセージが入る。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

Back number