よみもの・連載

捜し物屋まやま

第一回 後編

木原音瀬Narise Konohara

 殺人は未遂で阻止。犯人は逮捕されてこの件はめでたく終了……とはならなかった。六畳ほどの管理人小屋の中、長椅子に横になった陽奈さん、彼氏、自分たち四人、管理人、そして警察官二人は円を描くような形で対峙していた。
「酷(ひど)い誤解です」
 イケメンの彼氏は両手を握りしめ、怒りを堪(こら)える表情で唇をグッと噛(か)みしめた。
「彼女が蛍を見たいと言うので、二人で川の方に歩いて行ってたんです。けど彼女、ちょっと飲み過ぎてたみたいで、途中で道に座り込んで……。テントに戻ろうって説得したんですけど、どうしても見たいって聞かないから、仕方なく俺が背負って川に行ったんです。川岸に連れて行ったら、今度は川の中から見たいって言い出した。言うとおりにしたら、背中の彼女が急に暴れ出して、川に落ちたんです」
「嘘ですよ!」
 徳広は即座に反論した。
「俺はこの目で見てたよ。川の中に入っても、彼女は暴れてなかった。それに落ちた後、助けるどころか、沈めようとしてたじゃないの」
「嘘をついているのは、あなたの方だ」
 彼女を沈めたという肝心な部分を、彼氏は否定する。どんなに徳広が「沈めていた」と主張しても証拠はない。夜の川に、監視カメラがあるはずもない。
 通報で駆けつけた二人の男性警察官……五十代ぐらいのベテランと、まだ若い二十代の二人は、厳しい表情で自分たちを交互に見ている。
「けどさぁ、やましいことがなかったら、逃げなくてもよかったじゃん」
 和樹が口を挟んでくる。彼女を沈め、そして逃げ出した彼氏は、自分のテントに戻ると、横にとめてあった車に飛び乗った。キャンプ場から逃げようとしたのだ。それに気づいた白雄が石で運転席の窓ガラスを割り、外から彼氏を引きずり出そうとした。白雄に掴まれたまま車を発進させた彼氏は、車を蛇行させて白雄を振り落としたが、その拍子に道から脇の茂みに入ってしまい、木にぶつかりそうになって急ブレーキをかけた。衝突は回避したが、タイヤは段差に嵌(はま)って空転し動かなくなった。
 男は車を捨て、走って逃げた。キャンプ場の外へ出たかったのだろうが、辺りは暗いし、動揺していたのか、川の方へと逆戻りしてしまい鹿アタックを受けた……というわけだ。白雄は振り落とされた仕返しに蹴ったんだ……と口パクを読んだ和樹が教えてくれた。
「逃げますよ。だってこの人、俺を襲ってきたんですから」
 彼氏はまっすぐに白雄を指さした。
「俺はこの人に暴力を振るわれたんです。この人たち、どうでもいいようなことで、俺や陽奈に何度も声をかけてきて、昼間から怪しかった。しかも俺はこの人に車の窓ガラスを割られたんです。これって器物損壊ですよね」
 その点に関しては言い訳のしようがないので、四人して沈黙する。
「この人たちは、俺を痛めつけて動けなくして、陽奈をレイプしようとしてたんです」
「そんなわけないでしょ!」
 あまりに酷い嘘に徳広は思わず叫んでいた。無茶苦茶だ。仮にその言い分を採用しても、彼氏は自分が助かるためにレイプ犯の前に彼女を置いて逃げたことになる。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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