よみもの・連載

捜し物屋まやま

第一回 後編

木原音瀬Narise Konohara

「アネモネ……」
 徳広の呟きに、若い警察官が驚愕(きょうがく)の表情で自分を見る。
「あー眠いですね……」
 誤魔化しながら、確信する。この若い警察官は、アネモネ7(セブン)を、そのメンバーであるミイミイを知っている。彼はアネモネ7のファン仲間、通称アネ友に違いない。アネモネ7のメンバーは7人。誰のファンだろう……若い警察官の顔をじっと見つめる。この真面目そうな雰囲気からして、ゆかりんファンのような気がする。
「この件は終わりですね。陽奈もまだ体調が悪そうだし、車のことは明日でいいんで、いったんテントに戻っていいですか」
 彼氏はそう聞くが、横になっている陽奈さんの表情は相変わらず優れない。彼氏を……信じると言ったけど、信じ切れてないんじゃないだろうか。彼女がかけていたブランケットがフサッと床に落ちた。彼女が「あっ」と小さく声をあげる。それを若い警察官が屈み込んでサッと拾った。足許、制服のズボンの裾から見えた紺色の靴下に、黄色い線が一本入っているのが見えた。黄色はゆかりんのイメージカラーだ。間違いない!
「yukayuka-pon」
 ゆかりんのツイッターアカウントを呟くと、若い警察官が、ブランケットを手にしたまま勢いよく振り返った。その目が「もしやあなたも」と問うてくる。徳広も「そうだ」と視線で答えた。彼はアネ友だ。そしてアネ友に悪い奴はいない。
「この件は終わってません。俺たちは何一つ嘘はついてない。ただ、彼女を守りたいだけなんです! 輝くティアラに誓って」
 アネモネ7の人気曲「ハートのティアラ」でゆかりんの歌唱パート部分を織り込んだ徳広の訴えに、若い警察官の瞳が揺れる。年配の警察官は「被害届も出ない以上、我々にはどうしようもありません」と突き放す。それを若い警察官が「ちょっと待ってください」と引き止めた。
「あの……俺はこの件、もう少し詳しく話を聞いた方がいいと思います」
 年配の警察官が「えっ」と怪訝な顔をする。
「やっぱりその、双方の主張がここまでまっこうから対立するのもおかしいですし」
 若い警察官が味方についた! 流石(さすが)、アネ友だ。そして警察官の言葉に、自分たちだけでなく、陽奈さんもホッとした表情を見せたのを徳広は見逃さなかった。
「現場見てたの祐さんだし、口をはさまなかったんだけど、ずっと俺、気になってたことがあるんだよね」
 それまで口数の少なかった和樹が発言する。
「陽奈ちゃんさぁ、酒強い?」
「今この状況でそれを聞くことに何の意味があるんだ!」
 噛みつく彼氏を「俺は陽奈ちゃんに聞いてるの」と制し、和樹は「どう?」と促す。
「……わからない。けどけっこう飲む」
「俺、陽奈ちゃんが酒盛りしてる時にちらっと見たんだけど、飲んでたのってチューハイだよね。今日ぐらいの量で、記憶なくなるぐらい酔っぱらったことある?」
 彼女は首を横に振る。彼氏は「これって誘導尋問じゃないんですか!」と怒鳴った。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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