よみもの・連載

捜し物屋まやま

第一回 後編

木原音瀬Narise Konohara

「あんたは陽奈ちゃんと一緒に酒、飲んでたの?」
 和樹の問いかけに、彼氏は一瞬、返事に詰まった。
「飲んでなかった」
 かわりに陽奈さんが答えた。
「会社の健診で肝臓の数値が悪かったから、アルコールはしばらくやめておくって……」
 和樹は意味深に「ふうん」と相槌を打った。彼女は記憶をなくすほど飲んだのに、彼氏は飲んでない。そしてそこまで飲む彼女を止めもしなかった……ということだ。
「俺はね、陽奈ちゃんは今すぐ病院行った方がいいと思う。酒と一緒に、何か睡眠薬みたいなものを飲まされてるかもしれない。今なら成分検査で出るはずだから」
 彼女が息を呑む。彼氏は「そんな男の言うこと、真に受けるな。無視してろ」と強引に詰め寄った。
「被害届を出す出さないはさ、検査して結果を見てから決めなよ。俺らは見てきたことは言えても、何も残ってないから証拠はない。けど陽奈ちゃんの体に残っているものは、証拠になるからさ」
「そんなことをしてみろ、別れるからなっ」
 彼女が、小さく「でっ、でも……」と声をあげた。
「飲んでた途中から全く記憶ないの。今までこんなことなかったから……凄く恐い。体、そう、体……どこか悪いのかもしれないし、念のために……」
「俺が信じられないのか!」
 彼氏は「信頼」で責めてくる。口を押さえたまま、彼女は「そうじゃない、そうじゃないの」と繰り返す。彼女は彼氏を疑っているが確信はない上に、別れると脅されておびえている。
「……もういいです」
 俯いていた彼女が頭に手をあて、くしゃっと髪を掴んだ。
「あ、頭もちょっとはっきりしてきた。覚えてないけど、きっと……自分で勝手に、川の中に入っちゃったんだと思います。それを見たみなさんが、心配して勘違いして……」
「ねえ、管理人さん」
 この空間で存在感のなかった管理人……四十前後の男に和樹が声をかけた。
「今日、スマホをなくしたって問い合わせはあった?」
 管理人は「今日?」と首を傾げた。
「スマホをなくしたって問い合わせはよくあるけど、今日はなかったよ」
 陽奈さんは彼氏を見た。今日、スマホをなくした陽奈さんは、彼氏が管理人小屋に聞きに行ってくれたと話していた。けど……彼氏は問い合わせてなかった。
「俺は今日、問い合わせに来ましたよ。管理人さん、忘れてるんじゃないですか」
 彼氏の反論に、管理人は「そうだったかな?」と窓際のデスクに近寄り、ノートを取り出しパラパラと捲(めく)った。
「やっぱりないよ。落とし物の問い合わせがあったら、必ずここにメモってあるけどないからね。今日はずっと俺がここにいたし」

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

Back number