よみもの・連載

捜し物屋まやま

第一回 後編

木原音瀬Narise Konohara

 彼氏は「いや、俺は問い合わせに来ました」と言い張る。管理人の表情が「何だ、こいつ」と怪訝なものになり、チラリと徳広に目配せした。何もかも「嘘」で言い逃れしようとする彼氏に疑惑を抱きはじめてるんじゃないだろうか。これは……味方が増えた気がする。
「陽奈ちゃんには申し訳ないけどさ、俺は彼氏が怪しいと思ってる。俺らのことも怪しいって感じてるかもしれないけど、どうか病院にだけは行ってきてよ」
 和樹が真剣に訴える。そう、決めるのは彼女だ。そして迷っている。病院に行けば、彼氏を裏切ることになる……とうとう彼女が泣き出した。もう収拾がつきそうにない。すると白雄がすっと彼女に近づいた。そして俯せになって泣いている彼女の背中をそっと撫でた。
「……私、病院に行きます……」
 彼女は顔をあげ、両手で口もとを覆った。
「……え……私、喋ってた……私……私……」
 矢のようなきつい視線を送る彼氏から、陽奈さんは顔をそらした。
「私……ちゃんと……調べてもらいたい……」
 言葉を切り、そして「そうなんだ」と俯いた。
「私、きっと心の底じゃそうしたいんだ。だって恐い、恐いもの……」
 勝負がついた。彼女は正しい選択をした。彼氏は「やってられない」とその場で足を踏みならした。
「もう行くぞ!」
 彼氏が陽奈さんの手を掴む。乱暴に引っ張ったので彼女が長椅子から転げ落ちる。それでも引きずって出て行こうとする彼氏の腕を、白雄が掴んだ。
「いいい、痛っ」
 マッサージ師の握力は伊達ではない。彼氏が陽奈さんから手を離すと、若い警察官がサッと彼女を彼氏から引き離した。白雄が手を離す。彼氏は掴まれた腕をさすりながら、白雄を指さした。
「邪魔をするな! お前、暴行罪でも訴えてやる! 絶対に示談になんて応じてやらないからな」
 人を殺そうとした癖に、自分のことを棚にあげて訴えるとか、どういう神経だ。万が一、まかり間違って白雄が訴えられることになったら、その時は自分が弁護に立ってやる。
 何を言われても、当の白雄は平然とした顔だ。言葉がダメージとして全く響いていない。白雄が彼氏の前で、ニヤニヤと笑いながら指を動かす。空中で「バーカ」と片仮名で書いている。徳広が気づいた瞬間、彼氏が白雄に殴りかかった。その手を、顔面にあたる寸前で白雄は掴んだ。彼氏は勢いあまって白雄に突っ込み、二人は絡み合って床にドッと倒れた。
「みなさま、すみませんでした」
 白雄に押さえ込まれ、床で俯せになった男が大声で謝った。
「俺は嘘つきです。今日も人を殺そうとしました。とても反省しています。このキャンプ場は事故が多いって聞いたから、ここなら死んでも事故にできそうだなって考えました。最初は岩の上から突き落とす予定でした。前も事故のあった所だし、同じ事故があってもおかしくないかなと思って。けど人がいて、注意されたのでやめました。仕方ないのでプラン2、酔わせて川で溺れさせることにしました。これも人に見つかって失敗しました。失敗したことで、これって神の思し召しだって気付いたんです。俺はこれまでの罪を、心から悔い改めます」
 まるで人が変わったようにつらつらと告白する。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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