よみもの・連載

捜し物屋まやま

第一回 後編

木原音瀬Narise Konohara

「嘘だっ、嘘だっ!」
 起きあがり、彼氏は叫んだ。
「どうか俺に手錠をかけてください。警察署に連れて行ってください。刑務所にブチこんでください。早く! 早く!」
 彼氏は涙目のまま、懇願する。
「俺は人間のくずです。クソです。お願いです。生きていても仕方のない人間です。どうか俺を捕まえて。警官さん、あなたの手柄にしてください」
 反省しているが口調が不気味だ。
「違う、違う、こんなこと言いたいんじゃな……いえ、言いたいんです。俺はずっと罪悪感を持っていました。お金が大好きだけど、そのために人を殺すのって自分勝手だなって思ってたんです。どうぞ捕まえて殺してください。俺を殺してください。殺して、殺して、一気に殺してヒャッホウ」
 彼氏が涙を流しはじめた。人間ってのはわからない。追い詰められた究極の状態で、残されていた最後の良心が支離滅裂にあふれ出ている。
「きっ、気持ち悪い!!!! おっ、俺に……何か……宇宙人が乗り移っているよ。頭の中、支配されている。気持ち悪い! 気持ち悪いよう」
 彼氏が泣きながら絶叫する。……こいつ、いったいどうしたんだ?……と呆然とする徳広の前で、彼氏は不意に歌い出した。
「ぼくちゃんはね おんなのこ ころした ほんとだよ」
 なぜか彼氏は誰もが知る童謡を替え歌にして歌い始めた。
「だけどずるいから 今までずっとだまっていたんだよ 逮捕して ほら」
 なぜ、告白しながら歌うのかわからない。当の本人は、ずっと涙を流している。
「ぼくちゃんはね さんにん ころした ほんとだよ ナイフでブスブスだよ なぜかってお金がほしかった お金がね いちばん」
 彼氏はもう顔に血の気がない。
「ぼくちゃんはね ナイフを かくした ほんとだよ ヒントは車だよ 座席の下むりやり押し込んだ 見つけてね 早く」
 管理人小屋の中に、彼氏の恐い童謡が響く。歌いながら自白する殺人者。この歌のどこに終わりがあるのか、いつ終わるのか、それはこの場所にいる誰一人としてわからなかった。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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