よみもの・連載

捜し物屋まやま

第一回 後編

木原音瀬Narise Konohara

 朝日が窓から燦々(さんさん)と差し込む江原法律事務所、応接室のソファで徳広はスマホを握りしめたまま震えていた。とても悲しいのに、コーヒーの香しさが鼻孔をくすぐる。
「あの、大丈夫ですか……」
 三井は心配そうに声をかけてくるが、ちっとも、一ミリも大丈夫じゃない。陽奈さんからラインが来たのは、昨日。そこには『徳広さんはすてきで立派な人です。私にはもったいない方なので、お話はうれしいけれど、お付き合いという形はお断りさせてください』とまるで、見合い相手へのお返事、みたいな文面で振られた……振られたのだ。
 キャンプ場で彼氏に殺されかけた陽奈さんとラインを交換した後、頻繁にやりとりしていた。会うことはなかったが、けっこういい雰囲気になっていると判断し、満を持してお付き合いを申し込んだ結果がこれだ。
 心臓はバクバク、人生最大の勇気を出したのに、レスは三分で返ってきた。彼女にとって、自分は熟考の余地もない、取るに足らない存在なのだと思い知らされ、猛烈にショックを受けた。
 昨日からそのダメージを引きずったまま出勤し、仕事をしても集中できない。そんな時、「捜し物屋まやま」からモーニングコーヒーのお誘いがあった。みんなでわいわい騒ぐ気分でもなく「仕事が忙しい」と断ったら、三井が気を遣ってコーヒーだけ持ってきてくれたのだ。そしてついつい事情を打ち明けてしまい、今に至る。
「俺、思うんですけど……いい、悪いの問題じゃなくて、彼女はイケメン好きだと思うんです」
 三井の言葉がズブリと胸に突き刺さる。
「俺が不細工だからいけないって言うの! 酷いじゃないか」
「そっ、そうは言ってません。人には好きな色があるじゃないですか。赤とか青とか。そういう種類の好みだと思うので、これはもう仕方ないことだと思います」
 イケメンと赤青。関連性はない気もするが、確かに彼女の彼氏はイケメンで、白雄のことも初見で「かっこいい」と反応していた。……納得させられるのが悔しい。彼女の彼氏……今は元彼だが……は今、三件の殺人事件の容疑者として連日テレビを賑わせている。テレビに容疑者としてうつる彼氏の顔は、果てしなく邪悪に見えるのが不思議だ。殺人者という肩書きは半端ない。
 陽奈さんは、彼氏の四人目のターゲットだった。なくなっていたスマホも、彼氏のメッセンジャーバッグの中から見つかっている。そしてなんと彼氏は陽奈さんのスマホを使って昼間のうちに、彼女の親しい友人にラインで『彼氏に振られた。もう死にたい』とメッセージを送り、電源を落としていたそうなのだ。もしこれで彼女が亡くなっていたら、ラインの「彼氏に振られた」のメッセージと、あの男からの「彼女を振ってしまった」という嘘で、動機もはっきりした自殺が成立してしまうところだった。卑劣なあの男は「彼氏に振られ、酔っ払って入水自殺」というシナリオを書いていたのだ。
「俺は人間的に言うと、徳広さんがあの男の数万倍は勝っていると思います」
 それ、逆に返せば顔では劣っているってことだろ……とついつい僻(ひが)み根性が出てしまう。自分が白雄のような顔だったら、陽奈さんもOKしてくれたんだろうかと、そういうことは考えれば考えるだけメンタルを蝕(むしば)んでいく。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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