よみもの・連載

捜し物屋まやま

第一回 後編

木原音瀬Narise Konohara

 ここはendがあるゲームではなく、現実世界だ。自分で言っておきながら、非現実的だなと畏れてしまう。
 冷静に考えると、追い詰められた犯人が罪悪感にさいなまれ、自分が不利になると知りつつ自供しても、それはそれでおかしくはないのだ。まて、それって罪悪感か?……満足感? 自慢したい? ああ、自己顕示欲なら理解できる。
「占いを仕事にしてるぐらいだから、勘は鋭いし、霊感はあるんだよ。少なくとも白雄君はちょっとある、過去も見えるって言ってたし。そういうのも使って、ピピピッてインスピレーションみたいなので探してるんでしょ」
 三井は「そうかもしれないですけど」と息をつく。
 白雄といえば、あの卑劣な連続殺人犯を蹴り飛ばしていた。慌てて止めたが……あの後、こっちに帰ってきてから、白雄と二人で話した。いくら悪い奴でも、蹴るのはまずい、と。
「ああいうのは、訴訟とか裁判になった場合、不利になっちゃうよ」
 それ以前に、もう暴れていない相手だし、更に痛めつける制裁は必要ないのだ。白雄はスマホを取り出すと、何か打ってこちらに見せた。
『振り落とされて、肩を打った。腹が立った』
 徳広は見ていないが、白雄は彼氏の車から振り落とされていた。白雄はマッサージ師なので、手は商売道具。だから蹴ったのだと言うが、自分が白雄と同じ立場だとしても、蹴るという選択肢はないだろう。殺されるという状況ならわからないが、あの時は白雄が圧倒的に優位だった。……白雄は多分、人としての情が薄い。
「あのキャンプ、バタバタでしたね」
 三井がしみじみと呟く。バーベキューは中途半端、警察の事情聴取でろくすっぽ眠れず、ファーストキャンプを味わう間もなかった。
「あ、けど川原の蛍は綺麗でしたよね。恐くてろくに見られなかったけど、幻想的でした」
「俺、三井さんたちがトイレ行っている間に、バンビ親子も見たんだよ。いい雰囲気だったのに、陽奈ちゃんが沈められて、記憶がブッ飛んでたよ。バンビはあの彼氏にアタックも食らわせて、地味に助けてくれてたんだよなぁ。申し訳ないっていうか、何ていうか……もう俺、鹿肉は一生食べないって誓うよ。……キャンプ、散々だったけど、俺たちが行ったことであの彼氏が捕まって陽奈さんが助かったと思ったら、ちょっとだけ報われるよ」
 三井も大きく頷き、同意してくれる。ここで助けた彼女と付き合えてたら、最高のストーリーになっていたかもしれないが、現実はドラマのように甘くはない。
 ミイミイ、とメールの着信音が響く。二人とも同じ設定にしてあるので同時に反応したが、来ていたのは徳広のスマホだった。
「ポリポリからだ。来週のアネ7のライブに来るってさ」
「本当ですか」
 彼女はできなかったが、アネ7のファンの警察官と知り合った。彼はポリポリというハンドルネームで、ゆかりん押し。徳広のファンクラブの会員ナンバーが18だと知ると「師匠」と呼ばれるようになった。実は事情聴取を終えた帰り際、アネ7の話で盛り上がった。
「ライブの後、飲もうって」
「うわっ、いいですね」
 現実の彼女には縁がなかったが、友人は増えた。失恋は、いつもと変わらないミイミイの笑顔が癒してくれる。やっぱり自分の帰るところはミイミイだ。徳広は冷めたコーヒーを口に運んだ。白雄の好みの深く焙煎された豆は、舌にじんわりと苦い。ミルクを気持ち多めに入れると、苦味が薄まってほの甘い後口がふわんと残った。

(第一回 了)
(次回は2018年1月19日アップ予定です)

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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