よみもの・連載

捜し物屋まやま

第二回 前編

木原音瀬Narise Konohara

 事務所の窓の向こうに見える空は灰色。そして間山和樹(まやまかずき)の内面を表すかのように雨がしとしと降っていた。……いやしかし、よく考えたら昨日、一昨日、その前の日も曇り空で延々と雨が降っていた。内面にかこつけただけで、天気が悪いのは今にはじまったことじゃない。しかも梅雨まっただ中ときている。
 窓から手前に視線を引く。向かいのソファに担当編集者である河原(かわはら)みのりと、新担当になる予定の野郎が並んで腰掛けている。
 河原は細い目と高い頬骨の辺りが、記憶の中のあの子に似ている。今日の河原はやけに顔色が悪く疲れているようで、余計にあの子の雰囲気に近くなっている。
 最初に顔を見た時は、あの子が大人になったらこういう顔だったんじゃないかという妄想が現実になって現れたようで、ギョッとした。昔の知り合いに似ていると言われても困るだろうから、本人に言ったことはない。
 顔を見るたびに似てるよなあと思い、あの子の顔と昔の事件がセットで記憶の底から顔を出してくる。そして考える。やっぱお前、本人じゃね?と。そんなことがあるわけないのに。
「間山先生は、ここのビルのオーナーなのよ」
 河原の説明に、新担当が「マジすか」と驚く。
「じゃあ自社ビルってことすか?」
 両手を大きく広げ、聞いてくる。新担当の「松崎伊緒利(まつざきいおり)」はもらった名刺の字面だけ見たら、芸能人の芸名かってぐらいキラキラした雰囲気だが、本人からは半袖、半ズボンのジャージに茶髪、すきっ歯と中途半端なヤンキー臭が漂っている。
「俺のっていうより、父親が持ってる不動産の一つってだけだし」
 さっくりと否定する。けど、と松崎は食い下がってきた。
「最終的には自分のものになるってことでしょ。働かなくても家賃収入で暮らしていけるなんて、理想じゃないですかぁ。メガ羨(うらや)ましいですよ〜」
 すきっ歯ヤンキーの隣に座っていた河原が「松崎君」と静かに振り向いた。
「生活に余裕があるからこそ、執筆に専念できるのよ。間山先生の担当を外れても、私は一ファンとしてずっと応援していくから、松崎君は先生といい作品を作り上げて、早く新作を読ませてちょうだいね」
 松崎は「まぁ」と目を細め、頬に薄ら笑いを浮かべている。その顔に『無理じゃないすか。デビュー作以来、一作も書き上げられてない作家でしょ』と書かれてある……ような気がする。気のせいか? そうに違いない。いやしかし……ネガティブ思考をポジティブに変換できず、和樹は内心『こういうタイプ、しんど』と思いながら、自分で淹(い)れた茶を一口飲んだ。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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