よみもの・連載

捜し物屋まやま

第二回 前編

木原音瀬Narise Konohara

 学生時代、一週間で書いた小説を柊(ひいらぎ)出版の文芸誌「わん」の新人賞に応募した。誰かに読んでほしいという気持ちはあったが、まさか受賞するとは思わなかった。担当として河原がつき、応募作は佳作として雑誌に掲載されたが、それ以降四年の間に一作も完成させられていない。途中までは書くものの、面白くない気がしてやめてしまう。それの繰り返しだ。
 河原は和樹の受賞作を気に入り、担当を買って出たほど期待して、エッセイの仕事もいくつか依頼してくれた。何度も打ち合わせをしたのに小説としては一作も形にならず、期待に応えられなかった。
 数週間前、河原から知り合いの仕事を手伝うため退社することになったので、新しい担当を紹介したいと連絡があった。その新担当が派手な名前のすきっ歯ヤンキーだ。
 ガチャリと事務所のドアが開き「お邪魔しますよ〜」と徳広(とくひろ)が入ってくる。人がいることに気づくと「あっ、お客さんですか。失礼しました」とひょいと頭を下げ出て行った。
「もしかして、これから何かお約束がありますか?」
 来客だと思ったらしく、河原は心配そうに聞いてくる。
「別に。祐(ゆう)さんは仕事が暇で珈琲飲みにきただけだと思うし」
「友達ですか?」
 松崎が首を傾げる。
「ビルのテナントで働いてる人」
「不動産屋かぁ。そういう雰囲気だと思ったんだよなあ」
 そのどや顔の根拠を知りたい。
「あ、いや。二階の法律事務所のほうだし」
「じゃ弁護士ですか?」
 松崎はぐいぐいくる。間違ってもおかまいなしだ。人のビルの店子(たなこ)のことなんてどうでもいいだろと思いつつ、答えてやる。
「そうだけど」
 ハハッと声をたてて松崎は笑った。……すきっ歯が目につくヤンキー編集者の笑いのポイントがわからない。マジで。
「知り合いが弁護士とか最高。いいネタもらえそうじゃないですか。何かトラブルあった時も頼りになるし、身内価格で安くしてくれそうだし。拝み屋ってのも、俺から見たらネタの宝庫なんですけどね〜」
「違うわよ」と河原が否定する。そして「捜し物屋さんですよね」ときりっとした顔で確認してきた。
「そう、捜し物屋」
 すきっ歯ヤンキーに向かって、覚えとけとばかりに大きく頷(うなず)く。
「けど何か、霊感ピッピ使ってるんでしょ」
 松崎は顔の横で人差し指を立てる。それはいったい何のフラグだ? 電波か? 人のこと小馬鹿にしてんのか?
「それってお祓(はら)いのいとこみたいなモンすよね。あっ、俺ってこう見えてけっこう顔が広くて、アウトローな知り合い、まあぶっちゃけヤクザなんかもいたりして、そっち関係の取材ならばっちり段取れるんでよろしく」
 取材することになっても、お前に同行をお願いすることはぜったいにないわ、と心の中で呟(つぶや)く。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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