よみもの・連載

捜し物屋まやま

第二回 前編

木原音瀬Narise Konohara

「話してて思ったんすけど、間山先生って作品と雰囲気違いますね〜。デビュー作は女の子が主人公で、緻密で繊細な感じだったけど、本人はざっくり緩いっていうか〜」
 マジで余計なお世話だと、蹴り飛ばしたくなった。
 二人が捜し物屋まやまの事務所にいたのは一時間ほど。向かい合って話をしただけなのに、やけに疲れた。新作、あのすきっ歯ヤンキーと作るとか無理、絶対に無理、壊滅的に無理。というかもう多分、自分は小説を書けない。最初のあれが特別だった。これといって書きたい物もない。薄々わかってはいたけれど、応援してくれる河原を前に、本音を言えなかった。
 そして問題は「書けない」ということが、自分にとってさほどダメージではないということだ。どうでもいい、あればいいってものは大抵、駄目になる気がする。
 弟の白雄(しお)が海苔並みに湿気を嫌うということもあり、梅雨のまっただ中、捜し物屋まやまの事務所のエアコンは連日、除湿モードでフル稼働している。
 人がいなくなって気が緩んだのか、三人掛けのソファで横になってゴゴゴとエアコンの音を聞いているうちに眠くなる。欠伸(あくび)をし、寝返りを打った背中に、ふと違和感を覚えた。何か硬いもんがある。起き上がって座面を探ると、白いボールペンが出てきた。
 先端とクリップの部分が金色で高級感がある。百円とかじゃ買えそうもない。もちろん自分はこんな高そうなやつなんて持っていない。客の忘れ物か? けど今日は一人も来ていない。……こだわったペンを使う人……河原の顔が頭に浮かぶ。ラインで連絡を入れておこうとスマホを手に取るが、画面は真っ暗。充電が切れている。後でもいいか……と思っているうちに、ボールペンの存在を忘れていた。
 夜になって思い出し、河原に『白いボールペンがうちの事務所にあったんだけど、忘れてない?』とメッセージを送ったが、翌日になっても、翌々日になっても既読はつかなかった。


「本当にすみませんでした」
 雨が降っているせいで、明かりがついていても薄暗く感じる個室、窓際にあるベッドの上で河原は恐縮しきっていた。怪我(けが)の程度は聞かなかったが、面会ができるぐらいなら大丈夫だろ〜と軽く考えていた。
 なので部屋に入り、ベッドに横たわる河原の、頭や腕に巻かれた包帯の面積の多さにギョッとした。途端に足がすくむ。頭なんて、目と口ぐらいしかまともに見えていない。頭の中がぐるぐるする。まるであの子が大怪我をして自分を見ている……ような気がした。
 その場に立ち尽くした自分に「こんな姿ですみません」と河原は謝ってきた。見舞いにきたのに、怪我人に逆に気を遣わせてしまったと気づき「あ、いや、何か大変だね」と声をしぼりだした。
 近づくと、河原からは消毒薬の匂いがした。不安げな口許が幼く見える。ああやっぱお前、あの子じゃねーの?……いやいや、明確に違うし。本当に違うし。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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