よみもの・連載

捜し物屋まやま

第二回 前編

木原音瀬Narise Konohara

「壊れたスマホは友達に買い直してもらったんですけど、電話帳や住所録が飛んでしまったままで。上手く手が使えないので、ラインも移行できなくて……色々とご心配かけてすみません」
 謝る河原に「こっちに来る用もあったし」とボールペンを手渡すと、そっと握りしめた。
「祖父に就職祝いにもらったものなんです。凄(すご)く大事にしてて、なくしたと気づいた時はショックだったけど、見つかってよかった。ありがとうございます」
 自分じゃ全く見当もつかなかったので、店員にチョイスしてもらった見舞いのデコレーション花も「パッと明るくなるみたい」と喜んでくれた。一本もまともに書きあげられなかった自分に、根気強く付き合ってくれたお礼もしたかったので、正直ホッとした。
 ……柊出版からメールが来たのは、一昨日だった。河原からだと思ったらすきっ歯ヤンキーの松崎で、「わん」本誌の中にある「私の好物」をテーマにした短いコラムの依頼だった。返事のついでに「事務所に河原が忘れ物をしたようなのでラインを入れたが、既読がつかない。もう退職したんですか」と聞いてみた。この時点で、ラインを送ってから四日経っていた。あまりに反応がないので、白雄に誰の持ち物か見てもらおうと思っていた頃だった。
 松崎からは当日に返事があった。四日前に河原から怪我をして入院したと会社に連絡があったこと、事故の際にスマホが壊れたらしいので、連絡がつかなかったのはそのせいではないかと書かれてあった。そして当初の予定通り昨日付けで退職したと教えられた。
 忘れ物かどうか確かめるついでに見舞いに行きたいとメールをすると、河原に連絡を取ってくれた。本人からオッケーが出たとのことで、入院している病院名も教えてくれる。喋り方は緩いが、意外にもメールのレスポンスは速かった。
 松崎にコラムの依頼を受けた話をすると「見た目は軽いけど、仕事はできる子なんです。あと、間山さんに仕事いっぱいふっちゃってってお願いしておきました」と笑った。笑うと、包帯の痛々しさが余計に増した。
「その、車に撥(は)ねられたんだっけ?」
 切り出した途端に表情が曇り「ええ、まあ」と曖昧な返答になる。こりゃ事故のことは聞かない方がいいなと判断し「新しい仕事の方、大丈夫なの?」と話を変えた。
「それは、何とかなるかと思います」
「知り合いを手伝うって聞いたけどさ、もしかしてそこも出版社だったりするの?」
 いいえ、と答える声は暗い。
「これから先、私は本を作る仕事には関われないと思います」
 含みを持たせた、引っかかる言い方だった。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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