よみもの・連載

捜し物屋まやま

第二回 前編

木原音瀬Narise Konohara

「関わらないじゃなくて、関われないなの? 河原さん、メチャ本好きじゃん」
 会うといつも本の話をしていたし、面白いという本をよく送ってくれた。好きな作家がかぶるから、だから自分のことも推してくれるのかなと思っていた。
「そうなんですけど……」
 顔が震え、口許が歪(ゆが)む。そして決して大きくない両目からぽろっと涙がこぼれた。
「えっ、何? どうしたの?」
 急に泣き出した女性を前に、どうすればいいのかわからない。何か地雷を踏んだんだろうか。踏んでしまったに違いないが、具体的にどれがヤバかったのか見当がつかない。
「えっ、ごめん。マジで」
 よくわからないまま謝る。河原は「間山先生は悪くないんです。謝らないでください……」と言葉を詰まらせた。


 同居する弟、かつ料理全般を受け持っている白雄の帰りが遅かった。働いているマッサージ店の受付の手違いで予約のダブルブッキングが発生し、残業手当上乗せを条件に仕方なく居残りをしたからだ。バタバタしていて、帰りが遅くなるという連絡も入れられなかったらしい。
 ただひたすら弟の帰りと飯を待ち続け、気づけば午後九時。帰ってきた白雄も『疲れた』というし、雨も止んでいたので外へ出て、駅前にある全国チェーンのカレー店に入った。
 白雄は腹が空いていたらしく、出てきたカレーを吸い込むような勢いで食っていく。そんな白雄にテーブル席の女の子からチラチラと視線が飛んでくる。義理の弟は、嫉妬する気も失せるほど顔が整っている。端正という文字を顔の横に並べても、違和感のないレベルだ。背が高くてスタイルもいいから、昔から一緒に歩いているとよくスカウトされていた。そのスカウトも、白雄が口がきけないとわかった途端「ごめんね」と意味不明に謝り消えていった。
 自分も空腹だが食欲はない。昼間見た、泣いている河原の顔が折に触れ出てきて、気持ちが沼に引きずり込まれるように沈む。
「あのさぁ」
 向かいに座っているイケメンの弟が顔を上げた。
「小学校の時、吉田佐知(よしださち)っていたろ」
 白雄の目がまっすぐこちらを見て、コクリと頷く。
『いた。汚かった』
 胸がもやっとするが、白雄の認識は間違っていない。吉田佐知は一年中灰色のパーカーに黒いズボン姿だったので「魔女」とあだ名をつけられていた。いつも顔や手足が汚れていて臭うので、誰も近づかなかったし、虐(いじ)められていた。今なら親にネグレクトされていたのだとわかるが、子どもの頃は自分たちの目に見える部分でしか物事を判断できなかった。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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