よみもの・連載

捜し物屋まやま

第二回 前編

木原音瀬Narise Konohara

 汚い子、虐められている子として学年中で認識されていた吉田と、三年生の時に和樹は初めて同じクラスになった。自分も吉田を「汚い子」だと思っていて、魔女とは呼ばなかったものの、近づかなかった。
 吉田は友達がおらず、いつもぽつんと一人でいた。悪口を言われても、笑われても、怒ったり泣いたりしない。表情がなくて、人形のようだった。目は小さくて頬骨が高く、漫画や絵本に出てくる悪い人の顔をしていた。
 三年生の秋の終わり、和樹が塾の帰りに神社の前を通りかかると、鳥居の前に大きなのぼりが何本も立てられていた。人や車が頻繁に出入りしている。参道を覗き込むと、両脇に露店が作られようとしていた。お祭りの準備だ。のぼりには十六、十七……明日明後日と書かれてある。
 そういえば去年もこの時期にやっていた。住んでいる地区が違うので、外から見ただけだけれども。露店の準備が面白そうで、大人に交じって参道の中に入ってみた。焼き鳥に焼きそば、たこ焼きにお好み焼き、フランクフルト……看板を見ているだけでお腹が空いてくる。賑(にぎ)やかな参道を抜けると境内が見えてきて、その脇に神輿(みこし)があった。跳び箱二つ分ぐらいの大きさで、ネックレスみたいにじゃらじゃらしたものが神輿の屋根から垂れ下がり、ぴかぴか金色に光っている。
 ちょっと触りたい。見つかったら怒られるかなと思いつつ周囲を窺っていると、手水舎(ちょうずや)の傍(そば)を見覚えのある服が横切った。灰色のパーカーに黒のズボン……クラスメートの吉田だ。
 吉田は柿の木を見上げている。きょろきょろと周囲を見渡し、柿にそっと手を伸ばして……ひょいと引っ込めた。その横を、作務衣(さむえ)姿の大人が通り過ぎる。
 もしかしてあいつ、柿を盗もうとしてる? 泥棒だ。駄目じゃん。やっぱりあいつは駄目な奴だ。気づかれないよう、遠回りして後ろからそっと魔女に近づいた。まだ盗んでないけど、今にも盗みそうだ。
 じっとその時を待った。そして魔女が柿に手を伸ばし、もぎり取ったところで「泥棒」と声をあげた。魔女はその場で飛び上がり、振り返った。真っ青な顔で柿を握りしめ、走り出す。和樹も悪い奴を追いかけた。
 学校の百メートル走の時は遅かったのに、今日の魔女は滅茶苦茶速く走る。けど参道の脇でぐらりとよろけ、腹からびったんと転んだ。追いついてきた和樹に気づくと、声をあげてワーンと泣き出した。
 露店を作っていた大人がわらわらと集まってきて、泣いている吉田を慰める。自分が虐めて泣かせたと思われている気がして、吉田が柿を盗んだとバラした。魔女は泣きながら「ごめんなさい」と謝る。自分は「正しいこと」をしているはずなのに、すごく決まりが悪い。ずっと泣いている吉田にも、腹が立った。
 五十ぐらいのおばさんが「二人とも、こっちにいらっしゃい」と自分たちを呼び、神社の社務所に招き入れた。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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