よみもの・連載

捜し物屋まやま

第二回 前編

木原音瀬Narise Konohara

 ……白雄と初めて会ったのは、幼稚園の年長組の夏。母親と住んでいたアパートの隣の部屋に越してきた。互いにシングル、そして同い年の息子がいるということで二人の母親はすぐに仲良くなった。
 小さい頃に声が出せなくなった白雄だが、耳は聞こえている。手話はせず、唇を読んでもらったり、字を書いて人と話していた。
 白雄は意地悪で、大人に見えない場所で幼稚園の子に乱暴していた。声の大きい女の子の髪を引っ張って泣かせ、自分を叩いた男の子を砂場に突き飛ばして怪我をさせた。理由はあるし、虐めているというわけではなかったけれど、自分にとって不愉快なものに容赦なかった。
 相手を泣かせ、怪我をさせても、白雄は叱られなかった。怪我をした子がどれだけ「白雄くんに突き飛ばされた」と先生に訴えても、白雄が首を横に振れば信じられた。言葉が不自由な子が嘘をつくはずがないという先入観、そして普段の白雄はいるかいないかわからないほどおとなしく行儀がよかったので「まさか」という思いが多分、大人の中にあった。
 白雄は意地が悪いし、口がきけないし、遊んでいてつまらない。けれど母親同士が仲がいいからよく四人で一緒に出かけた。母親たちがお喋りしている間は「子供は子供同士でね」と二人で遊ばされる。その時間がもの凄く嫌だった。白雄も白雄でこっちに近づいてこず、互いに一人で遊んでいた。
 卒園を一ヶ月後にひかえた二月の半ば、白雄の母親が入院した。子宮筋腫が酷(ひど)くて、手術をすることになったのだ。親や親戚がいないので、入院中に白雄をどうするかで躊躇(ためら)って延ばし延ばしにしているうちに、仕事中に貧血で倒れ、どうにもならなくなり決めたようだった。最終的に入院中は和樹の母親が白雄の面倒を見ることで話はついた。
 喧嘩が勃発したのは、白雄が和樹の部屋に来て三日目。一緒に入っていた炬燵(こたつ)の中で、和樹は白雄の足を蹴った。わざとじゃなかったし「ごめん」と謝ったのに、気にいらなかったのか白雄は蹴り返してきた。ムカッっとしてやり返すと、またやり返される。やって、やり返してを繰り返しているうちに炬燵を出て、部屋の隅で取っ組み合いになった。
母親は風呂に入っていたので、止める人はいなかった。当時の白雄は小さくて細身で、まっこうからの力勝負だと和樹が有利だった。床に押さえつけてボカボカ頭を殴ると、白雄は顔を歪めて涙を流していた。
「「やめて!」」
 驚いた。自分は喋ろうなんて思ってないのに、声が勝手に飛び出した。
「「いたい、たたくな!」」
 白雄の口が動いている。何か言っている。けど声は出ていない。そのかわり、自分の口から声が出てきている。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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