よみもの・連載

捜し物屋まやま

第二回 前編

木原音瀬Narise Konohara

「「あっちいけ、ばか」」
 自分の口から出ているのは、白雄の声みたいだ。
「「おまえ、しね」」
 これ、白雄だ。白雄が喋ってる。死ねと言われているのに、ヒーローショーでレッドが目の前に来た時みたく、体がぶわっと熱くなった。
「なに、なに?」
 白雄の腹の上に飛び乗って、和樹は跳ねた。
「おまえ、おれのくちではなしてるの? どうして? なぁ、なぁ」
 白雄がむっとした顔で口を閉じる。
「おい、はなせよ」
 フイッと顔を背ける。声が聞きたくて白雄の腕をつねると、「「いたいっ」」と自分から声が出た。
 凄い、凄い、面白い。何回も白雄の腕をつねっていると「「いたい」」とか「「やめろ」」とかずっと言っていて、最後に「「うわああああーん」」と自分から大声が出てきた。涙は白雄の目から溢れているのに、泣き声は自分から出ている。
 つねるのをやめても「「うわあぁん、うわあぁん」」とずっと泣いている。これはちょっと嫌だ。困って白雄から離れると、自分の口から白雄の声は出てこなくなった。白雄は両手で目を覆って、魚のように口をぱくぱくさせながら泣いている。
 おそるおそる白雄に触ると、涙がいっぱい溜まった目でにらまれた。
「「しね。じごく、いけ」」
 口が動く。白雄の声だ。
「さわったら、おれではなせるの?」
「「おまえ、ころす」」
 白雄の声が出てくる。
「すっげええ!」
 和樹は叫んだ。
「おれではなせるのに、おまえ、じぶんではなせないの、どうして?」
 口をとがらせ、白雄はだんまりだ。
「おしえろよ。おれのくち、かしてやるから」
「「おまえ、きらい」」
「おれもおまえ、きらい。でもはなすの、おもしろい。さわったら、だれのくちでもはなせるの?」
 白雄はじっと和樹を見ていたが、小さくコクンと頷いた。
「すっげ、すっげ、まほうだ」
「「ママに」」
 白雄の言葉が口から出てくる。
「「このこと、いったらだめって。ぜったい、わるいこと、あるって。ひみつって」」
 自分の口を使って喋る白雄の顔は真剣だった。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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