よみもの・連載

捜し物屋まやま

第二回 前編

木原音瀬Narise Konohara

「いーけど、何買うの?」
 少し間を置いて「「コンドーム」」と自分の口から飛び出してきてぎょっとした。向かいから来ていた女の人が慌てて目を伏せる。
「白雄、てめぇ」
 和樹の腕を放し、白雄はひょいと後ずさった。
「人で遊ぶんじゃねえ。趣味悪い」
 白雄の顔が笑ってる。口がきけたらきっとけたたましい笑い声が出ているだろう。
「お前の遊びは、基本えぐいんだよ」
 首を傾(かし)げる仕草は「そう?」とでも言っているようだ。少し離れていたのに、また傍に戻ってきて『怒ってる?』と今度は口パクで聞いてきた。
「お前のセーカク悪いのなんて今更だし」
 また白雄は笑う。このノリで職場でやっていけるのかと思うが、続いているから何とかなっているんだろう。学生の時も、こういう「悪ふざけ」をしかけてくるのは、身内の自分にだけだった。
 結局、コンビニに寄ってアイスを買った。学生みたいに食いながら歩いていると、公園から「ハイハイハイハイ」とかけ声が聞こえてきた。ストリートダンスでもやっている人がいるのかなと思ってひょいと覗き込む。街灯の下に何か見覚えのあるちょいポチャのシルエットがあった。んんっ? もしや、と思い近づくとやっぱり徳広だ。三井(みつい)とポリさんもいる。三人はおそろいの黄色いTシャツを着て、右手にピンク、左手に黄色のサイリウムを握りしめ、かけ声と共に目にも止まらぬ速さで振り回していた。
 凄そうだが、気合いが恐い。
「あのさぁ、何してんの?」
 声をかけると、徳広が勢いよく振り返った。その額には汗が光っている。
「和樹君こそどうしたの?」
「俺たちは外で晩飯食ったからさ、その帰り」
 徳広はふいっと息をつくと、首にかけていたタオルで顔の汗を拭った。
「俺たちはライブに行ってたんだよ。新曲の振付、ポリさんがわからないとこがあるって言うから教えてたんだ」
 背が高くて角刈り、怒ってなくても眉間に皺(しわ)ができるのがチャームポイントのポリさんが「こんばんは、和樹さん、白雄さん」と腰を直角に曲げて挨拶する。こっちの肩が懲りそうになるほど堅苦しくて真面目。これまで周囲にいないタイプだったので、ちょっと面白い。みんなハンドルネームを短縮してポリさんと呼ぶのでそれが定着し、誰も本名の宝井(たからい)とは呼ばない。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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