よみもの・連載

捜し物屋まやま

第二回 前編

木原音瀬Narise Konohara

 ポリさんは山間部の駐在所に勤務している警察官だ。キャンプに行った際に巻き込まれた事件で知り合った。弁護士の徳広や事務員の三井と同じ、アネモネ7(セブン)というアイドルグループの大ファンだ。徳広と三井は三十代半ばだが、ポリさんは二十代後半と若い。
「ポリさん、今日は休みなの?」
 水曜日の夜、一般人は明日も仕事だ。和樹の問いかけに、ポリさんは右手をぐっと握りしめ親指を突き出した。
「夜勤明けです」
「うわっ、元気だね」
 三人はよく、いや毎月のようにアネモネ7のライブに行っている。ポリさんは家が遠方なので、ライブで遅くなった日は徳広の家に泊めてもらっているらしい。「アイドルのライブって、スポーツみたいにシーズンオフとかあんの?」と徳広に聞いたら「ない」と断言された。ということは、ほぼ毎月ライブをやっているということで、やる方も見る方も体力が不可欠だ。
「ちょうどいいとこにきた。俺たち三人の動きがそろっているか、ちょっと確認してくれないかな」
 徳広にお願いされたので、三人の正面に回る。スマホから音楽が聞こえてくると、三人は横並びで踊り始めた。腕の振りがけっこう激しい。ぐるんぐるん振り回している。意外にも、三人の中ではぽっちゃり目の徳広が一番キレがよかった。三井もまあまあ。ポリさんに至っては……動きは間違っていないが、カクカクしていてまるで手旗信号。踊りの素質がないんだろうなと思わせる、壊滅的な有り様だった。
 一曲踊り終えると、徳広と三井のオッサン三十代コンビはヘナヘナと座り込んだ。ポリさんは元気で「もう一曲、踊れますが」と下手くそなくせに鬼畜なことを言ってくる。
 ぽつっと鼻先で雨粒が弾けた。雨が降り始めたと思ったら、いきなりフルスロットルで強くなる。ビルに帰るまでにずぶ濡れになりそうで、全員が公園の中にある東屋(あずまや)に駆け込んだ。六角形の屋根の下は二畳ほどの広さがあり、真ん中に一体型になったテーブルと椅子がある。
 三井がスマホを開き、雨雲レーダーを見ながら「通り雨だと思うんですけどね」と呟(つぶや)く。みんなで椅子に座り、もう少し小降りになるまで待つ。和樹がテーブルの上にコンビニで買っていたポテチを出すと、四方八方から遠慮なく手が伸びて、ぼりぼりと合唱のような咀嚼音(そしゃくおん)が雨音に重なった。
 ザアザアと遠慮なく雨は降る。昼間も降っていた。また頭に浮かぶ。病室で泣いていた河原の顔が……。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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