よみもの・連載

捜し物屋まやま

第二回 前編

木原音瀬Narise Konohara

「セクハラってさぁ、犯罪だよね」
 和樹はぽつりと言葉を投げる。徳広が「急にどうしたの?」と食いついてきた。
「知り合いの知り合いがさ、セクハラで辞職したんだよね」
「訴えるなら俺、引き受けるよ。復職する気がないなら、がんがん攻めて慰謝料をもらっちゃえばいいよ」
 徳広が所属する法律事務所は離婚問題を中心に扱っているが、セクハラ案件もそこそこやっている。
「本人たちも、訴えるつもりだったらしいんだけど……」
 和樹が口ごもると「そういう思わせぶりなのって気になるから、全部話してみてよ」と徳広が向かいから、汗くさい体で身を乗り出してくる。
「辞職した人って、会社勤めですか? 俺も仕事を辞めた原因が人間関係、今で言うパワハラだったから、身につまされるな」
 三井が両手を組み合わせて、指先を擦り合わせる。ポリさんは知らなかったらしく「そうだったんですか?」と問い返す。
「もう十年以上前の話だよ。それがトラウマで引きこもりになっちゃって。母親に心配かけて、申し訳なかったなって思うよ」
「もっと早く知り合ってたら、訴訟起こして慰謝料ふんだくってやったんだけどね」
 憤慨する徳広に、三井が「もう昔のことですし」と苦笑いする。
「で、和樹君の知り合いの知り合いは、具体的に弁護士とか決まってるの?」
 徳広は本気で受けかねない勢いだ。昼間、見舞いに行った後から、河原の件が頭の中でグルグル回っている。自分は誰かに話したかった、聞いてもらいたかったが、白雄ではその誰かにならなかった。
「それは決まってるんだよね。被害者ってのが、出版社の前の担当の……」
 和樹は河原から聞いた話をかいつまんで四人に話した。……彼女はベストセラー作家である青谷珀景(あおたにひゃっけい)の担当だった。プライベートな話はしなかったし、多忙ということで小説ではなくコラムの仕事しか受けてもらえなかったが、担当する作家の一人として問題なく仕事をしていた。その日、河原は青谷の家に手書き原稿を取りに行く予定になっていたが、仕事が押して動けなくなってしまった。仕方がないので、後輩の榊(さかき)に原稿を取りに行くよう頼み、その旨を青谷にも伝えていた。
 榊は原稿を受け取ってきてくれたが、ずっと俯(うつむ)いたままで暗い表情をしていた。そして翌日、無断欠勤した。真面目でそういうことをする子ではないし、昨日の様子も気になってアパートに様子を見に行くと、榊は原稿を取りに行った際に青谷に胸を揉(も)まれて恐かったと訴えてきた。けれどこのことを人に話したら、お前の会社では二度と仕事をしないと脅されて、何も言えなかったと泣きじゃくった。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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