よみもの・連載

捜し物屋まやま

第二回 前編

木原音瀬Narise Konohara

 河原は青谷に連絡をすると、胸を揉んだのはあっさり認めて「足がよろけて、手近にあったものをつい掴んでしまった。申し訳なかった」と謝ってきた。榊は「右も左も揉まれたし、やましいところがなかったら、口止めするはずがない」と怒った。
 河原が編集長にも訴えたが、一緒に怒るどころか「揉んだっていっても、わざとじゃなかったんでしょ」「謝ってくれたんでしょ」と榊に泣き寝入りしろと言わんばかりの態度だった。
 納得できず、モヤモヤしたものを抱えていた河原は、他社の編集者との飲み会で「青谷先生は、セクハラで有名だった」と教えられる。今でこそ落ち着きはしたものの、昔は若い女性の編集者は絶対に担当にするな、と言われるほど手が早かったと。
 河原は編集長にセクハラの噂(うわさ)の件を問い詰めると、ようやく青谷の悪行を知っていたと渋々白状した。それを教えてもらっていたら、榊に原稿を取りに行かせなかったと涙目になる河原に、編集長は「先生は美人で巨乳がタイプだから、お前は大丈夫だと思ってたんだ」と、暴言を吐いた。青谷は来月に発表される文学賞、川澄大賞の候補になっているし、原作映画の公開が控えていて、下手に騒ぐと色々な人に迷惑をかけることになるから、あまりうるさいことは言うなと牽制(けんせい)された。
 榊は「男の人が恐い」と無断欠勤を続け、セクハラを受けた二週間後に出版社を辞職したが、その後も河原は彼女の相談に乗っていた。色々と悩んだ末に、榊は弁護士を通じて青谷に謝罪と示談金の要求をしたが、青谷は事実無根と言い出して徹底抗戦をする構えになった。
 榊が訴訟を起こすと言うので、河原は悩みに悩んだ末に、自らも退職して手伝うことにした。出版社の人間だとしがらみもあり迷惑をかけることになるが、辞めてしまえば自由に動けるからだ。
 訴訟準備を始めた矢先、河原は事故にあった。夜、後ろから来た男に突き飛ばされたのだ。そこはガードレールのない歩道で、道路に飛び出した河原は軽自動車に撥ねられた。河原は「被害妄想かもしれないですけど」と前置きした。
「……狙われた気がするんです」
「それって、青谷珀景に?」
 河原は頷いた。後輩の訴訟を手伝うために出版社を辞めることを隠して、青谷の担当を松崎に交代した。引き継ぎの挨拶で青谷の自宅に行った時には、特に問題なく顔合わせは終わった。その三日後、スマホに青谷から着信があった。
『河原さんですか、青谷です』
 嫌な予感がした。その前の日、青谷が榊の家の前で待ち伏せしていて、訴訟をやめろと迫ってきたと榊から聞いていた。彼氏も一緒だったので青谷は手が出せず、榊も強気に「絶対に訴える」と拒否した。「お前一人で何ができる!」と凄む青谷に、榊はうっかり「河原さんも応援してくれてる」と口を滑らせてしまった。それで青谷は「あいつが裏で糸をひいていたのか」と吠(ほ)えた。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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