よみもの・連載

捜し物屋まやま

第二回 前編

木原音瀬Narise Konohara

 和樹に引き継ぎをする時も、行きは松崎と一緒だった。事故はその帰り、他の作家と打ち合わせがあるという松崎と別れ、会社に帰る間の出来事だった。
 犯人は河原を突き飛ばした後、逃走した。目撃者の証言や防犯カメラの映像から、犯人は背が高く二十〜四十代の若い男と推測され、青谷ではないと河原本人にはわかっていた。しかし青谷が絡んでいるのではないかという疑惑を河原は払拭(ふっしょく)できなかった。
 だが証拠はない。青谷の暴言は録音していなかったし、手紙はプリントアウトしたもので、内容も抽象的だった。
 そして何より、このことを榊に話していいのかどうか迷った。自分が恐がって話せば、榊は訴訟をやめるかもしれない。それが青谷の狙いだ。けれど話さなければ、今度は榊が何か危害を加えられるかもしれない。しかし自分の事故を青谷が仕組んだという決定的な証拠はどこにもないのだ。
 どうすればいいのか……誰にも相談できず、河原は一人で苦しんでいた。そして全く関係のない和樹に「このこと、誰にも言わないでください」と泣きながら打ち明けるほど切羽詰まっていた。
「青谷という男が人を雇って犯行に及んだ可能性は高そうですね。そうなると実行犯は殺人未遂、青谷は共同正犯です。今、聞いた状況から判断して、犯行は計画的でしょう」
 本職のポリさんがサクッと分析する。自分たちがいくら青谷が怪しいと思っても、証拠はない。殺人未遂なので、当然警察も動いているが、犯人は黒い帽子にマスクをしていたので、人相は殆(ほとん)どわかっていない。
「青谷ってセクハラ野郎、離婚案件でよくある、話し合いがこじれて妻にストーカーする夫の改悪バージョンを見てるようだわ」
 徳広は腕組みし、眉間に皺を寄せる。あの、と三井が右手を小さくあげた。
「ネットに書き込んで拡散しましょうか。青谷珀景がセクハラしてるって」
 和樹もそれを考えていた。セクハラ三昧だったなら、絶対に他からも被害者の声が追随してくるはずだ。
「それはやめといたほうがいい。本当のことだったとしても、名誉毀損(きそん)が成立しちゃうよ」
 ここは法律の専門家、徳広が止めてくる。
「知り合いに地元紙の記者がいます。いつもネタを欲しがっているので、彼に預けてスクープ誌に売り込んでもらうというのはどうでしょうか。文学賞発表の前々日ぐらいに公表すれば、タイミング的にもばっちりではないかと」
 ポリさんがなかなか鬼畜な提案をしてくる。それが青谷以外誰も傷つかないやり方のように思えたが、ここも徳広が「どうだろうねえ」と疑問を呈してきた。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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