よみもの・連載

捜し物屋まやま

第二回 前編

木原音瀬Narise Konohara

 ようやく小降りになってきたので、東屋を出た。みんな家に帰るのかと思っていたら、ビルに戻るという。法律事務所に大きなテレビがあるので、これからライブ動画を三人で見るらしい。アパートだと音を気にしないといけないが、ビルだとそれなりに防音が効いている。
 いい歳した男が集団でゾロゾロと歩く。最後尾をついていきながら河原のことを考えていると、吉田佐知の顔が浮かんで消えた。二人はよく似ているから、次第に自分がどっちのことを考えているのかわからなくなってくる。
 白雄はずっと隣にいたのに、セクハラ&殺人未遂の話に参加して来なかった。話したかったらスマホメモに書いて見せたり、それも面倒くさかったら和樹の口を使う。両方ないということは、どうでもいいし、興味もないのだ。そういうのが、わかりたくないのにわかってしまう。
 腕を掴まれる感触があった。振り向くと白雄の唇が『すきなの?』と動いた。
「誰のことだよ」
『女の担当』
「別にそんなんじゃねーし」
『放っておけば?』
 どうしようもないことなのに、白雄自身に腹が立ってきて「そーだな」とおざなりに返す。けど自分はこの件を放っておきたくない。
 胸の底が、あかぎれしたように些細(ささい)なことでヒリヒリ痛む。そして記憶は、簡単に過去へ飛んだ。
 ……神社の柿事件があってから、吉田がたまに自分のことを見ているんじゃないかと感じることがあった。けれどこっちに話しかけてくることもなかったし、本人に確かめた訳じゃないから本当に見られていたかどうかはわからなかった。
 冬休みの少し前、三年生はもちつきの課外授業があった。農家に行ってもちのできるまでを見学し、つきたてのもちを実際に丸めてみるというものだ。
 つきたてのもちを食べた後、他のクラスと入れ替わりで帰ることになっていたが、到着予定のバスが渋滞で一時間ほど遅れることがわかり、農家の敷地から出ないことを条件に自由行動になった。
 子牛がいるということでみんな牛舎の方に行ってしまったが、和樹は前に干し草の近くに行ってくしゃみが止まらなくなったことがあるので、白雄と一緒に裏庭へ回ってみた。
 そこには半畳ぐらいの広さの鶏小屋があった。金網越しに鶏をからかっていると、奥にある畑の脇に灰色と黒のモノトーンが見えた。吉田は今日も魔女だった。
 目が合うと「とり、かわいい?」と吉田は聞いてきた。鶏は柵の中に突っこんだ小枝を嘴(くちばし)でつつき、ケーッケーッと鳴いて暴れ回っている。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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