よみもの・連載

捜し物屋まやま

第二回 前編

木原音瀬Narise Konohara

「かわいくないけど、うまそう」
 吉田はにーっと笑った後、ちょっと悲しそうな顔をした。
「柿、なくなった」
 それが神社の柿だというのは、すぐにわかった。
「もう、木に一個もない」
 和樹はポケットの中に入れていた、ビニールで包装された丸いもちを取り出した。課外授業の最後、生徒全員におみやげにと配られたやつだ。
「おい、とれよ」
 ポンと放ると、吉田は両手で上手にキャッチした。
「やるわ。俺、もち嫌い」
 もちをにぎりしめ「嫌いなもの、いっぱいだね」と言う吉田から離れて、表の庭に回る。すると白雄に腕を掴まれた。
「「嘘ついた」」
 自分の声だけど、白雄の声。
「「おもち、好きなのに」」
 和樹は腕を振り払った。
「うるさいんだよ。人の口、使うな」
 ズンズン歩きながら考える。柿がなくなったなら、お腹が空いた時にどうするんだろう。気になったけれど、迎えのバスがきて、みんなでワアワア言いながら乗り込んで、担任の先生が五月、結婚するという話で大騒ぎになっているうちに忘れた。
 年が明けて、三学期がはじまってからは波乱だった。吉田が給食費を盗んだのだ。それを見つけたのは、和樹だった。返せと言ったのに、吉田は返さなかった。このお金がないと、家賃が払えなくて家を出て行かないといけないと泣いた。外で寝るのは寒くて嫌だと。その前の日、数年に一度という寒波で大雪が降っていた。
 吉田は給食費を持って家に帰った。そして和樹は、自分が給食費を盗んだと言い張った。クラスメイトの何人かは、和樹と吉田が言い争うのを見ていて、吉田が犯人だと知っていたけれど、泣きじゃくる吉田の姿に同情したのか、何も……何も言わなかった。
 教師は何度も自分に聞いた。なぜ盗んだのか、何に使ったのか。人のお金を盗むのは、泥棒だと。何を言われても、心は少しも傷つかなかった。盗んだのは自分ではなかったし、吉田を守っているというプライドがあった。
 それなのに白雄がやらかした。教室で、自分の隣の席の子の腕を掴んで「「お金を盗んだのは、吉田だよ。家賃が払えなくて、家を追い出されるんだって」」と曝露(ばくろ)したのだ。自分の口から勝手に出た言葉に、その子は首を傾げていた。
 いくら自分が「違う」と言い張っても、もう遅い。先生が「本当なのか」と聞いてきて、和樹が黙っていても、見ていた他の子たちが、白雄の曝露をきっかけに次々と勝手に口を開いた。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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