よみもの・連載

捜し物屋まやま

第二回 前編

木原音瀬Narise Konohara

 自分が「守ろう」としていたものを台無しにされて、和樹は泣いた。白雄が何度も『和樹のせいじゃない』『悪いのは吉田』と言っても聞かなかった。そういう問題じゃないんだと、白雄には理解できなかった。
 それからしばらく、白雄と話をしなかった。口を使われたくなかったから、触らせなかった。けど白雄はいつも後ろから、捨てられた子犬みたいな顔で、影みたいにくっついてきた。自分が和樹に相手にされない原因が吉田だとわかってはいたようで『吉田、きらい』『あいつ、死んだらいい』と口パクしていたが、余計に和樹が怒るとわかってからは、言わなくなった。
 そんな白雄と仲直りをする条件が「人の悪口を言わない」と「白雄がその力を使って喋っていいのは、俺の口だけ。俺が許さない時は、絶対に俺にも他人にも使うな」だった。白雄の力の使用を、自分の許可制にしたのだ。白雄はその条件で頷いた。
 ……四年生になる前の春休み、吉田に会った。お菓子を買いに行ったコンビニの駐車場、吉田はぴかぴかした赤い車の前に立っていた。魔女の姿じゃなかったし、車と同じ赤い色のワンピースを着ていたから「ねえ」と声をかけられるまで、気づかなかった。赤いワンピースは、吉田にあまり似合っていなかった。
 給食費事件は大人の間で話し合いがされて、いったいどうなったのか生徒に知らされることはなかった。ただそれ以降、吉田は学校を休みがちになった。学校に来るのが気まずいというより、母親に「行くな」と言われているようだった。
 だから吉田の顔を見たのは、久しぶりだった。
「さっき、朝ご飯食べた」
 吉田の家は、朝ご飯はないと言っていた。
「この服、昨日買ってもらった」
 嬉しそうにニコニコしている。
「これから遊園地行く。宝くじが当たったんだって。お金あるってしあわせだね」
 和樹が「ふうん」と相槌を打つと、長い髪の女の人が赤い車の運転席に乗り「佐知」と呼んだ。「またね」と赤いワンピースは助手席のドアを開けた。
 その日の夜、吉田の母親は娘と共にレンタカーで海に飛び込んだ。母親は助かり、吉田は見つからなくて、片方の靴だけ浜に打ち上げられた。二週間後、靴だけが入った棺(ひつぎ)で葬儀が行われた。三年生の時のクラスメートが、ほぼ全員参加した。テレビのニュースになったせいなのか、葬儀場の外にはテレビがきていて、吉田を「ブス」だと虐めていた女の子が、外側に跳ねた髪をやたらと気にしていた。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

Back number