よみもの・連載

捜し物屋まやま

第二回 前編

木原音瀬Narise Konohara

 色々なことを「変だ」と思う感情が、怒りなのか悲しみなのかわからない。あの時、吉田には確実に「死」へ向かうルートがあった。朝ご飯や服は、手に入れちゃいけないアイテムで、エンドルート。じゃあ何をどうしたら、吉田は心中エンドを避けられたんだろう。
 最後に吉田と母親に会ったのが自分だったから、警察に色々と聞かれた。いつも朝ご飯を食べてないって話してたのに、その日は食べたって言うから変だった。いつも同じ服を着てたのに、新しい服を着てて変だった。話を聞いてくれた女性警察官は「最後にいい思いをさせてあげたいっていう、母親のせめてもの罪滅ぼしだったのかしらね」と言っていたが、殺したくせに、自分だけ生き残ったくせに、意味がわからなかった。
 春休みが明けて、四年生になる。三年の時に同じクラスだった子も数人いて、最初のうちは吉田の話も出てきたけど、一週間もしないうちに誰もその名前を口にしなくなった。まるで最初からいなかったように、存在は消え去っていた。
 自分一人が、気にしている。校庭の隅にまだいるんじゃないかと思ってしまう。どうしてみんな、忘れるんだろう、忘れられるんだろう。自分だけずっと心が曇ったままで「どうすればよかったんだろう」と「救出ルート」を延々と考え続けている。時間が経つにつれて、そんな気持ちは薄れていったが、完全に消えてなくなることはなかった。
 けど、なんとなく……あんなことになっても、吉田は誰のことも怒っていない気がした。怒っていないけれど、寂しいだろうなと。でも所詮(しょせん)、それも自分の想像だ。
 河原と吉田は違う。吉田の時はどこに「正しい」ルートがあったのかわからなかったが、河原は悪者が誰なのかわかっている。わかっているのに、悪者の悪事は野放しのままで、そいつのまわりには権力とか、売り上げとか、おのおのの思惑と損得勘定が小バエみたいにたかっている。
 ビルに戻ってくる。アイドル仲間の三人は二階の法律事務所に、自分と白雄は最上階の四階まで階段を上がる。ここには自分たちの事務所と住居しかないので、廊下も真っ暗。通路の明かりのスイッチを入れると、事務所のドアの前に人影が浮かんで「うわっ」と声をあげた。上下ジャージ、茶髪のすきっ歯が青白い顔でこちらを見ている。
「ま……つざきさん?」
 新担当のすきっ歯ヤンキーは「あ、ども……」とひょこりと頭を下げる。
「原稿の取り立て? って……締め切り来週じゃん」
「あ、いや、今回は別件でお願いが……」
「新規の仕事?」
 えっと、その……と散々口ごもった後、「探してほしいものがあって……」と松崎は背中を丸め、俯いた。

(次回は2月20日アップ予定です)

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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