よみもの・連載

捜し物屋まやま

第二回 後編

木原音瀬Narise Konohara

 松崎(まつざき)は「消えた」と、まるで魔法かの如く力説していたが、話を聞くとどこをどう取っても「忘れた」に変換できた。
「気づいたら、青谷珀景(あおたにひゃっけい)先生の手書き原稿が封筒ごと消えてたんですよ!」
 自分の失態は棚に上げ、松崎は「消えた」を連呼する。
「見つからないと、確実に首が飛ぶんすよ。前に手書き原稿を無くした編集者が、退職させられた上に、慰謝料請求されてて……俺も同じコトになるかもしんなくて」
 青谷先生の原稿料、ゲロ吐くぐらい高いんすよ……とぼやく。
「青谷先生とか、正直言ってあの作風好きじゃないけど、河原(かわはら)さんに任されたから仕方なくって感じで担当を引き受けたんですよ。その直後にコレで、もう泣きたいっすよ。原稿なくした俺が悪いのはわかってるけど、わかってるけどさぁ……」
 原稿がないと気づいてから、松崎は自分が歩いたルートを引き返し、駅、電車、立ち寄ったカフェに忘れ物がないか確かめたが、見つからなかった。大御所の原稿を紛失したと編集長にも言えず「そういえば、新しく担当になった作家が怪しげな捜し物屋をやってたな」と思い出し、一縷(いちる)の望みをかけてやってきたというわけだ。
「そんなこんなで捜してください。お願いします。金は払うんで」
 土下座の勢いで頭を下げるが、金を払うのは当然だ。さっきまで話題の渦中にいたセクハラ青谷の紛失原稿を見つけてやるなんてムカつくが、本人に百万倍問題があったとしても、原稿に罪はない。松崎も今にも泣き出さんばかりの勢いで困っていたので、依頼を受けてやることにした。
 なあなあにならぬよう、客の名簿に住所氏名を記入させ、料金を前払いで請求する。「金は払う」と言っていたくせに、松崎が千円札を手にため息をついたのを和樹(かずき)は見逃さなかった。
 ソファに向かい合って腰掛け、袋から数珠を取り出す。松崎は「その恐ろしげなものは何ですか」と聞いてきたが、面倒くさいので無視した。背後に立つ白雄(しお)は、隣で話を聞いていたので「何」を捜したいのかわかっている。
 自分の肩に白雄が手を置く。すると白雄の唱える経文が口から出てくる。自分はそれが何を意味するか知らないが、体を通る音の響きにいつも背筋がゾクゾクする。
「「茶色の封筒……ビル……白く小さな部屋」」
 そして自分は、白雄が見て、白雄が発する言葉を伝えていくだけだ。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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