よみもの・連載

捜し物屋まやま

第二回 後編

木原音瀬Narise Konohara

「「漫画のポスターが貼られた壁、白いドア、本が積まれたきたない机……クキタカヒロ」」
 そこで白雄の言葉は途切れた。松崎は口も半開きのまま、ぽかんとした顔をしている。仕方ないので、和樹は補足した。
「ビルってさ、柊(ひいらぎ)出版のビルじゃねーの? 漫画のポスター貼ってあるとこってある?」
 松崎は「二階の漫画編集部とか……」と答える。
「そこにクキタカヒロって社員がいないか聞いてみなよ。その人の机にあるってことだと思うけど」
「どうして漫画編集部に文芸の青谷先生の原稿があるんすか?」
「そんなん俺にわかるわけないじゃん」
 松崎は半信半疑の表情で社に電話した。夜遅い時間にもかかわらず、漫画編集部には人が残っていて、クキタカヒロという社員はいるが、今日はもう退社したと言われた。電話に出たのが親切な人で、クキのデスクを捜してくれて、青谷先生のものかどうかはわからないが、小説らしき手書き原稿があったと教えてくれた。通話を切った松崎は「マジか……」と呟(つぶや)いた。
「あったけど、あったけど、なぜ漫画編集部? おかしいって」
 白雄が、背中に手を置いたのがわかった。
「「出版社の一階にある部屋かな、あんたそこで誰かと話をしただろ。その時に机に忘れたんだよ。後からその部屋を使ったクキは荷物をいっぱい抱えてて、あんたの忘れ物に気づかないで、その上に自分の荷物を置いた。で、打ち合わせが終わると、あんたの荷物ごと自分のデスクに持ってかえったってことだ」」
 松崎は「うおっ」と変な声をあげる。
「霊感ピッピも凄(すご)いもんですね」
 感心されているのかもしれないが、イラッとする。
「今度、そっち系の本でも出しますか〜」
 ここへ来た時とは打って変わって満面の笑顔だ。
「マジ、サンクスです。じゃそろそろ終電ヤバいんで、帰ろうかな」
 松崎がいそいそとソファから立ち上がったところで「あのさ」と声をかけた。
「まわりくどいの面倒だからぶっちゃけるけど、青谷先生のセクハラ案件って社内じゃどういう扱いなの?」
 松崎は途端に面倒くさそうな顔になり、前髪を掻(か)き上げた。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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