よみもの・連載

捜し物屋まやま

第二回 後編

木原音瀬Narise Konohara

「それ、河原さんに聞いたんすか?」
 質問に答えないということは、何か後ろ暗いことがあると言っているのと同じだ。
「……退社してるのに、情報漏洩(ろうえい)もいいとこっすよ」
「そういう問題じゃないと思うけど。……社内に、河原さんたちのセクハラ案件に協力しようって人、いないの?」
 あのねぇ、と松崎は諭すような調子になった。
「原稿を見つけてもらったのはありがたいし感謝するけど、青谷先生のそっち方面に首突っ込まないでほしいんすよねぇ。俺も面倒なことに関わりたくないし、ぶっちゃけ関係ないし」
 松崎は「そんじゃ、失礼しまーす」と帰って行った。和樹はゴミ箱を掴(つか)み、その中に「くそったれ!」と叫んだ。
 直後にドアがコンコンとノックされた。松崎が忘れ物でも取りに戻ってきたのかと思い、一言ぐらい何か言ってやるつもりで勢いよくドアを開けると、そこに立っていたのはポリさんだった。
「……和樹君、もしかして怒ってますか?」
 対松崎用の戦闘モードの顔になっていた。
「ごめん、ちょっと顔間違えた」
 その言い方がおかしかったらしく、ポリさんは笑った。
「こんな時間にすみません。もしかしてワインオープナーをお持ちではないですか?」
「台所は白雄のテリトリーだけど、ある?」
 振り返ると、白雄はこくりと頷(うなず)いた。『とってくる』と唇を動かし、住居部分に消えていく。
「今から飲むの?」
 ポリさんは「正確に言うと、もう飲んでますね」と答える。
「最初はビールだったんですが、徳広(とくひろ)さんがクライアントからもらったというワインが五本ほどあるらしく、飲んでみようということになったんです」
 白雄がワインオープナーを手に戻ってくる。それを受け取り、和樹は右手を握りしめた。
「ポリさん、これ貸すから、俺も飲み会に交ぜてくんない」

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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