よみもの・連載

捜し物屋まやま

第二回 後編

木原音瀬Narise Konohara

 二階の、徳広の職場でもある法律事務所には、六畳ほどの広さの応接室があり、壁には半畳くらいの巨大な壁掛けのテレビモニターが設置されていた。応接室には必要ない代物で、所長の趣味としか考えられない。
 その巨大モニターでは、七人の女の子たちがスカートをひらひらさせながら歌い、踊っている。
「ミイミーイ!」
 ビール缶を片手に握り、モニターに向かって叫ぶ徳広を横目に、和樹はコップに注いだワインを一息に飲んだ。高級品かもしれないが、味はわからない。全くわからない。
 白雄もついてきたが、酒は飲まない。和樹の隣でつまみのさきいかをくちゃくちゃと噛(か)みながら、ペットボトルのお茶を飲んでいる。
 三井(みつい)はアネモネ7(セブン)の音楽に合わせて部屋の隅で一人、延々と踊っている。たまに飲み、そして踊る。確実に酔いが回るパターンで、次第に足許(あしもと)が怪しくなってきた。
 ポリさんはいつも通り、背筋を伸ばしてソファに座り、ワインを飲んでいる。飲酒の際まで礼儀正しい。そして顔も赤くならない。
「ポリさん、酒強いね」
 和樹が見ている間に、一人でワインを一本あけていた。
「いいえ、顔に出ないだけで私は酔っています。こんな大きな画面でアネ7が見られて、幸せです」
 ……ポリさんが目を細め、うっとりとした顔をする。
「あぁ、ゆかりん……myゆかりん。結婚したい」
 チラリと酔っ払いの片鱗(へんりん)が見える。三井がよろけながら近づいてきて、和樹とポリさんの間のわずかな隙間に倒れ込んできた。
「ちょっ、三井っち!」
 半分のしかかってきた三井の体を起こす。その顔は赤く、目の焦点は合っていない。
「だーかーらー飲んで動くと回るって言ったじゃん」
 和樹も酩酊(めいてい)したい気分だったのに、人の酔っている様を見て酒のペースが落ちる。つくづくこういうのは早い者勝ちだ。
「くー公文(くもん)の糞(くそ)ったれえぇぇぇ」
 絶叫し、そのまま突っ伏す。動かなくなった。酔い潰れたのかもしれない。
「公文って誰なんだよ?」
 和樹が首を傾げると徳広が「前、聞いたな。優しいと思ってたけど、嫌な先輩だったんだってさ」と教えてくれる。ふうん、と相槌(あいづち)を打っている間に、白雄が三井をひょいと抱え上げて、部屋の隅に転がした。細身でも腕力はあるのだ。
「昔のことはあまり話さないけど、酔っ払うとついつい出ちゃうんだろうね、本音が」
 徳広がしみじみ語る。まぁ、人間とはそういうものかもしれない。酔っ払ったら……本音……。
 人は酔っ払ったら、ついつい本音が出るもの……本音……自白……淀んだ頭の中がクリアになってくる。その通説を逆手にとって、白雄を使って……やれるんじゃないか?
 けどこの計画を一人で遂行するのは無理だ。
「あのさぁ、ちょっと真面目な相談があるんだけど……」
 酔い潰れた一人をのぞき、二人の酔っ払いと白雄が和樹にゆっくりと振り返った。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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